妹が話しかけてきた √ブルマとメイドと男の娘

深田あり

妹が話しかけてきた √ブルマとメイドと男の娘

プロローグ 引き裂かれた三つの魂

引き裂かれた三つの魂


 起きて。起きて。

 あ、おはようお兄ちゃん。目が覚めた? あ、ううんいいよ何も言わなくて。驚かせちゃったね。ごめんね。

 びっくりもするよね、私が死んだ翌日だもんね。ごめんね。

 どうやら私、幽霊になっちゃたみたい。馬鹿な話だよね。わかってる。でも私だって幽霊なんかになりたくなかったんだよ?

 どうもね、ほら、私の死因ってかっこ悪いじゃない。昨日――お兄ちゃんの部屋に行こうとして、階段から足を滑らせて、頭打って死んじゃった。

 何て言うのかな、死んでも死にきれない? そんな想いがね、魂を縛り付けちゃったみたい。えへへ。

 えと、その……なんて言ったらいいのかな。うん、いいや、もう死んじゃったんだから言っちゃえ。


 お兄ちゃん。私、お兄ちゃんのこと好きでした。

 家族とかじゃなく、男の人として、ずっと。


 でもね、私たちはほら、兄妹じゃん? だからさ、ずっと言えなかったんだよ。言えなくて、言いたくて、でもやっぱり言えなくて。そしたら死んじゃった。えへへ。

 だからさ、もういいの。どうにもならないことだから。

 でも、その、あのね。私、成仏できないの。どうもこの想い、とっても強かったみたい。

 病気で死ぬとか、災害に遭った人を助けようとして死ぬとかならまだしも、お兄ちゃんに会いに行こうとしたら足を滑らせて死んじゃったなんて、どうにも納得できないんだよ。

 だからさ、お兄ちゃんに成仏させて欲しいの。せめて。

 それが私の最期のお願い。ねえ、叶えて欲しいな。

 え? 除霊師や高僧を呼ぶって? ううん、それは無理なの。それだけじゃ、私は成仏できないの。だって――私の魂は今、ここだけじゃないから。

 なんかね、私の魂、ちぎれちゃったみたい。

 普通死ぬとね、魂って昇天するみたいなんだ。死んではじめてわかった。誰かが言ったとかそうじゃなくて、理屈でもなくて、感覚でなんとなくわかるの。

 でも、成仏を私が拒んで拒んで――ちぎれちゃった。

 ここじゃない、他の世界に。

 そして他の世界の女の子の魂と、くっついちゃった。

 私の魂は三つにちぎれちゃって、それぞれを昇天させなきゃ私は成仏できないみたい。

 だからさ、お兄ちゃんの魂を、ちょっと貸して。

 私が導いてあげる。その三つの世界に。そこで私の魂を満たして欲しい。

 満たすって? ああ、うん。説明するね。私がどうして成仏できないかっていえば、私が満足してないから。

 お兄ちゃんが好きで好きで大好きで、なのに想いも伝えられずに死んで、それがどうしても納得いってないの。

 だから――満たさせて。私がお兄ちゃんが好きだったという想い。それを満たさせて。

 お兄ちゃんの魂を借りて、同じように散らばった三つの魂が宿った子を幸せにさせて。

 そうすれば、私は満足できる。昇天できる。だって私の想いが籠もった魂が満たされるってことだから。魂を宿したその子が満たされることで。

 ね? お願い。


 え? いいって。ありがとうお兄ちゃん!

 じゃあ早速魂を借りるね。行くよ、私の魂が宿った――ここじゃない、三つの世界に。

 私の好きって想いを、成就させるために。

 そして私が、満足してあの世に逝くために。

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