春・楽園空間

春・楽園空間(1)

 さあ、最後の世界だよ! ここまで私たち、よく頑張ったよね!

 ここは今までとはちょっと違うの。場所はルナ・エル王国と言って、私たちの世界とは根本から違う。大地も違うし歴史も違う。そして何より――この世界には『魔法』があるの。だから最後にしたんだ。

 一応私だって考えてるんだよ? 最初は日本。そして次に外国。そうして少しずつ異世界の段階を経て、最後にこの魔法の国にするようにセッティングしたんだー。

 じゃあ恒例のこの世界についての説明を始めるね。お兄ちゃんにとってもこれが最後の旅になるわけだから、しっかり聞いてね。お兄ちゃんには毎度おなじみこれから違う男の人の肉体を乗っ取るわけだから、基礎知識として覚えなきゃね。だから説明をしっかりするね。

 ルナ・エル王国はアースと呼ばれる惑星……まあ異世界の地球だね。その北半球にある島国だよ。魔法と呼ばれる概念があるのはこの国だけ。他にも同様の力はあるけれど魔法とは呼ばれていないし、運用方法も大きく異なるの。というよりろくに運用されてない。少なくとも魔法に生活の全てを依存しているのはこのルナ・エル王国のみ。季節は四季があるにはあるけれど、日本と違い寒暖の差はそれほど激しくなくて、平均気温は十七度くらい。ちょっと寒いね。

 まあ、それはいいとして、この国では基本魔法だけで生活を成り立たせている。農業国で食料を輸出し、外貨を稼いでいるけれど、工業力はかなり低め。テレビもないしラジオもない。車もそれほど走ってない。どこぞの歌みたいな世界。鎖国しているからね。

 魔法は悪魔の力って意味なんだけど、これは他国からの蔑称で、この国では誇りをもって魔法って呼んでる。月の神ルクナラと太陽の神ナクイザ、二つの神から授けられた力として。あ、この国二神教なのね。

 この二つの力が混ざり合って生み出されるエネルギーを魔力と言って、その魔力を利用して形成される力を魔法と呼ぶの。そして魔法を技術体系化したものを魔術、もしくは魔導と定義されてる。魔術とは魔法を利用した攻撃様式のことで、まあ、武術だね。この魔術を使うことでルナ・エル王国は独立を維持できている。魔導というのは……まあ、お兄ちゃんには関係ない話なんだけど、魔法を利用した生活様式のことで、これで工業や農業、さらには日常生活を実行しているの。魔術の専門家を魔術師、魔導の専門家を魔導士と呼ぶ。お兄ちゃんは魔術師になるね。

 魔法のお陰で生活にも防衛にも困らないから当然産業革命なんかしてない。独自の文化が発展しているの。国土の大半は農地だけど、都市部は……まあ、十九世紀の欧州くらいで文明が止まっているね。言うまでもなく永世中立国。

 王政で、貴族制も残ってる。奴隷制はないよ。貴族は男子だけの特権で、平民が貴族になる方法は役所で男爵が売ってるからお金出せば買えるけど、子爵以上は買えない。国家に功績を残す必要があるの。まあ、これもお兄ちゃんには関係ないから飛ばすね。

 さて、お兄ちゃんの境遇について。

 お兄ちゃんの名前はマルセル・アークルーロ。階級は平民。十五歳。上級学校を卒業し、特級学校である士官学校に通うことになったの。

 この国の教育システムは三歳から十二歳まで通う九年間の義務教育。これを下級学校。日本でいう小学と中学になる。十三歳から十五歳まで三年間通う進学率九割の高等教育。これを上級学校。日本でいう高校だね。そして十五歳から二十歳まで専門教育を学ぶのが特級学校。専門学校と大学がごっちゃになったような感じ。進学率は二割くらいで、ほとんどの人は十五歳で働きに出るの。まあ、多くは農業なんだけど。

 だからお兄ちゃんはエリートなんだね。魔術を駆使してルナ・エル王国の国防を守る兵士になるための学校、士官学校に通うエリート。

 ここでこれから五年間しっかり学ぶ訳なんだけど、大切なのは私の魂が宿っている女の子。同じように今年から士官学校に通うことになった子爵令嬢、アナナス・フロイレ。

 さ、一通り説明を終えたところで、そろそろ学校へ行こうか。今日は入学式だからね。アナナスと早く会おうよ!

 学校は古いお城を多くの魔導士たちが魔法で改築した もので、ちょっとだけロシアのクレムリンっぽいデザインだね。偶然だけど。

 大きいし、荘厳だよね。でも怖じ気づかないで、さ、前に向かってゴー! 空はまるで私とお兄ちゃんを祝福するかのように快晴だよ!

「やあ、マルセル!」

 え? お兄ちゃんの背中から声? あ、なんだ彼か。お兄ちゃん、振り向いて。

 そうそう、この世界にはお兄ちゃんと小さい頃からコンビを組んでいた親友がいるんだよ。名前はアオ・エーレースクトル。ちょっと可愛らしい容姿の男の子で――え?

「どうしたの、マルセル? ボクの顔に何かついてる?」

 あ、あれ? この子……い、いや……そんな、馬鹿な……。

 え? あ、ああ、ごめんなさい。アオの容姿を説明するよ。

 その前にアオが見せびらかすようにくるりと一回転。

「それとも――この格好かな? あはは」

 はい。説明します。背丈は百五十後半と、男子にしちゃチビの部類。中性的な愛くるしい顔立ちと少しだけウェーブのかかったセミロングの黒髪がとてもマッチしていた。

 生まれて一度も重い物持ったことありませんといわんばかりのつやつやの手肌。指先なんて女の子とどう違うのか判らない。

 そして、姿。士官学校の男子はお兄ちゃんが着ているように、藤色の詰め襟っぽい服に黒いマントを羽織って、ルナ・エル王国の紋章が入った帽子を被るんだけど、彼の姿は……まず帽子は同じ。黒いマントも同じ。でも上半身は純白のブラウスに藤色のリボン。そして黒いミニスカートに白いニーソックス。やたら艶めかしいすらりとした脚はそんじょそこらの女子には到底成し得ない美を形成していて、指定の黒いパンプスがなんというか、綺麗だった。そして輿には魔法単杖(ルナ・イミレルト)と呼ばれる長さ一メートル五十センチほどの木製ステッキを武士の刀のようにぶら下げている。

 はいそうです。これは女子の制服です。あ、魔法単杖(ルナ・イミレルト)は全く同じものをお兄ちゃんもぶら下げているよ。この魔法単杖(ルナ・イミレルト)は全国民が一つ以上持っている。というか、どこにでも売ってる。この杖から魔法が発露されるわけだから、生活必需品なんだよね。

「なーに驚いてるのさ、ボクの格好がそんなにおかしい? くすくす」

 おかしいよ! おかしいに決まってるじゃない! だって私の調べた限りでは、アオに序章趣味なんてなかったもん! それに……それにそれに!

「ああ、言ってなかったね。ボクさあ、実は男子として試験受けてなかったんだ。女子として登録したんだよ。もち、トップで合格したけどね!」

 あ、そ、そうなんだ。それはどうして? いや、そうじゃない。そうじゃなくて! その、あの、あのね!

「どう? 似合うかな。てへへへ」

 またくるりと一回転。違う! そうじゃない! 私が言いたいのは――


 なんで私の魂が、君の体に宿っているの!?


 ああ、でも、それを聞くことはできない! く、くうう……っ!

 あ、アナナスは、アナナスは一体どうしたっていうの? おかしいよ。あり得ないよ。だって私の魂は、アナナスに宿るはずだったのに!

「さて、マルセル。ボクがどうして女の子になったかわかるかな?」

 知らないよ! 知りたくもない!

「ああ、まだ魔法で完全な女の子にはなってないけどね。そのためにボクは士官学校に入ったような物だし。ほら、士官学校に通えば他じゃ習得できない第五階層魔法を習えるだろ? ボクは調べたんだ。あったんだよ、第五階層魔法に。性転換の魔法がね!」

 へ、へえ。そうなんだ。凄いね。魔法を使って本当の女の子になるなんて、普通じゃない。

 あ、魔法にはランクがあるの。全部で七つの『階層』に別れてて、学習レベルで習得する魔法が違う。生まれてすぐ覚えるのが基礎である第一階層。下級学校で習うのが少し技術を必要とする第二階層。上級学校で生活に必要なあらゆる技術を包括した第三階層。そして特級学校で専門的な技術を含む第四階層魔法を学ぶんだけど……士官学校は国防の必要性から非常に特殊な性質を持つ第五階層まで特別に学べるの。でも、アナナスと結ばれるのが主目的だったから、そんな知識教えるつもりはなかった。いらないもん。

 一部の特権階級だけが保有する門外不出の第六と伝承にあるだけで誰一人習得できた者がいない第七はそもそも習わないから置いとくとして。

 ねえ、アオ。どうして君は私の魂を宿しているの? ああ、でも、お兄ちゃん。それを訊ねちゃダメだよ。気になる。すっごい気になるけど!

「ボクが士官学校に通ったのは軍人になるためじゃない! 性転換するためさ!」

アオが凄く誇らしげに胸を張って、ドヤ顔で答えた。

 あっそう。それさっきも言ったよね! そんなことより。

「え? なんで?」

 お兄ちゃん! 何聞いているの!? え? 理由が知りたかった? 私は別に興味ないもん! だって男の子だよ? いや、今は男の娘か。どっちでもいいけどさ! 男と男は結ばれないの! 魂は昇天できないの! だから――

「あれ? わからないかな? わからないんだ。だったらストレートに言うよ」

 そう言うとがばっと片膝をついて、すっと花束でも差し出すかのような仕草で両手をお兄ちゃんの前に掲げて。

「マルセル! ボクはずっと君のことが好きだったんだ! 結婚してくれ!」

 はいぃっ!?


 私は釈然としない思いを抱えているわけだけど、かといって時間の流れをせき止めることはできないわけで、アオはお兄ちゃんの腕に抱きつきながら校舎の中へと入っていった。

 天まで届きそうな巨大な吹き抜けのロビー。天井はステンドグラスがきらきらと輝いていて、壁には高そうな絵画が駆けられている。足下は絨毯敷きだ。なんというか、私たちの知る学校とは明らかに赴きが違う。

 ロビーには百人を超えるいかにも育ちのよさそうな新入生たちが期待と不安を胸に抱きながらきょろきょろと落ち着き無く周囲を見回している。

 くそう、アナナスはどこだろう。本来は彼女の中に魂が宿っているはずなのに。私、探してこようかな。あ、ダメだ。教官がやってきて新入生達を講堂へと案内しだした。お兄ちゃん、しょうがないからついていこう。

 アオは今だお兄ちゃんの腕にしがみついている。どいてよ! くそう、何があってもどかないつもりか……。もういいや、お兄ちゃん、講堂へ行こ。

 レッドカーペットが敷き詰められた長い廊下を突き進み、別棟、講堂棟へと辿り着く。そこにはキリスト教の教会のように長机が並んでいて、入った順番に座っていく。特に出席番号とかはないみたい。

 真ん中の列、そのさらに真ん中辺りにちょこんとお兄ちゃんとアオが座り、猫なで声で囁きかけてきた。

「ふふ、いい学校だね。なんてったって全寮制だもんね! マルセル、君は夜這いし放題だ! ボクはいつでもウェルカムだよ!」

 あんた男のくせに女子寮に入るのかよぉ! てかお兄ちゃんに夜這いを誘ってる!?

「ああ、ボクは女子で登録したら女子寮に住むことになるけれど、マルセル、来てもいいんだよ? てか来て欲しいな」

 いきません! いくわけありません! ほら、お兄ちゃんも毅然と断って!

 と、そんなことやっている間に入学式が始っちゃったよ。くそう……予定なら入学式の前にアナナスと出会いたかったのに……。

 さて、入学式だけど、概ね日本と同じだね。生徒会っぽい先輩の学生がスケジュール新興をして、先生たちが壇上に上がり、お祝いの言葉を贈ってゆく。途中、国歌斉唱や校歌斉唱なんかもあって、ほんと日本と大して変わらない。まあ、アメリカやフランスには入学式というイベントそのものがないから、むしろ親近感が湧くね。唯一の違いはマイクを使ってないことくらいかな。魔法を使って音量を上げている。

 流石に入学式中はアオも大人しくしている。さ、私は今のうちにアナナスを探さないと。どこかなー。

「では続きまして、新入生代表より挨拶。アオ・エーレーストクル。壇上へお願いします」

 ファッ!? あ、ああいや、よく考えたらそりゃそうか。新入生代表挨拶は、入学試験で一位になった者が行なうのが慣例になっているから。

「おっと、入学の挨拶をしに壇上に向かわないと。なんせトップ合格だからね。はっはっは」

 アオは悠然と規律し、胸を張り、堂々とした足取りで壇上へと向かう。そこには微塵も男の子らしさを表すことがない。どこからどう見ても快活な女の子のそれ。

 そう、最初にも言ったけど、お兄ちゃんはエリートで、アオは下級学校時代からの名コンビだったんだ。つまりアオもまたお兄ちゃん同様超優秀な人材なんだよ。ちなみに入学試験、お兄ちゃんは二位合格です。

 と――声。

「どうだいマルセル? みんながボクを見ているよ? ボクのこの、美貌をね」

 それは壇上にのぼったはずのアオからの声。でも周囲には聞こえていない。魔法を使ったか。まるで、威嚇でもするかのように。


 一体どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 入学式はなんとかつつがなく終えることが出来たけど、これは私の計画とは大きく異なっている。本来アオのいるべきポジションにはアナナスがいるはずだったのに。ブルマとメイドと魔法少女で終わるはずだったのに、どうしてブルマとメイドと男の娘に? わからない。わからないよぅ。

 いや、もういい。気持ちを切り替えよう。

 入学式も終え、生徒たちはぞろぞろとお城な校舎へと戻ってゆく。そこで私はついにアナナスを発見できた。お兄ちゃん。こっちだよ。早速挨拶しようね。

 おっと、その前にアナナスの方から気付いてくれたよ。よかったね。

「あ、貴方は……」

 アナナス。青いストレートの長髪をまとう、すらりとした手足が特徴的な、ちょっと長身の女の子。でも背が高いことをコンプレックスにしているから触れちゃダメだよ。

 全体的にどこか孤独な影を宿す子で、ペアのような気の強さや花梨のような快活さもない、大人しい子。女の子だから法的には平民なんだけど、子爵令嬢のため蝶よ花よで育てられてきた箱入りのせいかあまり積極性がないから、今回はお兄ちゃんからどしどしアプローチしていこう。

 アナナスはね、上級学校時代に会ったことがあるんだよ。学校は違ったんだけど、魔術クラブに所属していた関係で何度か共同合宿を開いて、そこで知り合ってる。

 その頃からアナナスはお兄ちゃんに恋心を抱いていたんだよ。そしてお兄ちゃんもね。

 さ、お兄ちゃん。アナナスに声を――

「やあマルセル。奇遇だね。今日から授業初日だ。頑張ろう!」

 ぽんとお兄ちゃんの背中を叩く女子。いいや男の娘。アオがまるで邪魔をするかのようなタイミングで声をかけてきちゃったよ。

「え、えと……」

 あーほら、アナナスが両手を口元に添えてもじもじと困惑している。お兄ちゃん、アオは方って置いてアナナスをエスコート……。

「おっとアナナス。君のクラスはあっちだよ」

 その前にアオがすかさずアナナスの肩を掴み、彼女を教室へと押し込んじゃった!

「え、あ、そ、そう……ごめん、なさい」

「気をつけてくれたまえよ。初日早々遅刻したら大変だよ」

 な、なんてことするのこいつ!

 アナナスを教室に導いた後、アオはくるりと踵をめぐらして、にまーっとどこか邪悪な気を帯びた笑みを顔¥いっぱいに象って、びっと廊下の端を指さした。

「さ、マルセル。僕たちは最上級の魔法を学べる特進クラスだ! 急ごう!」

 こ、こいつは……。


 負けちゃダメだよお兄ちゃん。授業なんてどうでもいい。すっ飛ばすよ! さあランチタイムだ。食堂へ急ごう。アナナスに会うんだよ!

 うーん、何というか、荘厳な食堂だね。神殿みたい。取り敢えずビュッフェスタイルだから適当に食べ物をトイレに盛って、と。さて、席なんだけど、えーと、アナナスは……。

「えと、マルセル……さん。ここ、いい、ですか?」

 お、彼女の方から着てくれた。よかったね、お兄ちゃん。一緒に食べよう。

 むっ、気配!

「やあマルセル。一緒にランチだね。おっとアナナス。君、あっちで友人が呼んでいたよ」

「え? ほ、本当……?」

「ああ、ほら」

 くいっとあごをしゃくるアオ。その先には数人の女子生徒がグループを組み、手を振っていた。

「アナナスー」

 どうやら彼女には早速友達が出来たらしい。早いなー。

 って、いや、そうじゃない! え、ええ、えええええ!?

「あ、えと……その、ご、ごめんな、さい……あたし、行かなきゃ」

 えええええええええっ!?

 そんな! え、ちょ、待っ!

「友達は大事にしなきゃね。さ、マルセル。ランチしようか。お茶、煎れてあげるよ。このゴールデンドロップがたまらないね!」

 なんかアオが華麗な仕草で紅茶なんか煎れちゃってるし!

 アナナスー! かむばーっく!


 け、結局ランチを一緒に取ることはできなかった……。

 で、でも負けないもん! お兄ちゃん、放課後こそアナナスにアプローチを仕掛けよう!

 えーと、アナナスのクラスは授業が終わったみたいだけど。

「マルセル……さん。あの、あたし……」

 あ、いた。アナナスがもじもじとしながらもこっちに来てくれたよ。長身のためか視線が同じ高さだね。でもそれを言及しちゃダメだよ。気にしてるんだから。

 さあこれからデート……。

「やあアナナス! 探したよ!」

 アオ!? また君か! なんだっていちいち入ってくるんだよぉ!

 って、お兄ちゃんじゃなく、アナナス?

「え? アオ……さん?」

 アナナスは困惑した面持ちでアオを見た。名前は知っているんだ。そりゃそうか、壇上で挨拶したもんね。それに一位合格だし、お兄ちゃんとコンビ組んでた相手だし、知らないわけもないか。

「いや実はね、さっき君のクラスのティーチャーに言付かっていてね、備品整理を頼みたいんだそうだ。マルセルに用ならボクが承るよ」

「え、えと……い、いえ……じゃ、失礼……します」

 アナナスは何も言い返すことなく、寂しそうにお兄ちゃんの脇をすりぬけ、廊下へと消えていった。後ろ姿から一滴の涙が飛んだのを私は見逃さなかった。

 アナナス……なんて不憫な……。

 てか。

「ああ、頑張って勉学に励んでくれたまえ!」

 この男は一体何を考えているんでしょう。ほんと邪魔しているとしか思えない。

 と、アオがやおらお兄ちゃんの手をぎゅっと両手で掴んで、にぱっと微笑む。

「さ、マルセル。ボクらは帰ろう」

 嫌です。お断りします。お兄ちゃん、きっぱりとそう言って!

「なあ、マルセル。今夜、夜這いに来て欲しいな。セキュリティは軽いよ?」

 ダメだ! 全然相手にされてない。なんて華麗なスルー!

「はっはっは。マルセル。君も冗談を言うようになったか!」

 いや、華麗なスルーは言わなくていいから。私の嘆きを伝える必要はないんだからね。

 それにしても、アナナス……どうしたらいいの……。

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