第五話:“黒鉄“の胎動 - selection of Death -




「―――はぁ」


 ―――机に突っ伏し、クリスが嘆息する。

 そんな光景を日に二度もみたクラスメイト達は、「あぁ、やっぱりまたやらかしたか」と特に反応も示さない。


 落ち込み、盛り上がり、落ち込み、また盛り上がる。

 いつも通りのクリスの姿に、その場にいた面々は最早安心感すら覚えていた。


「また落ち込んでんのかよ」


 そんなクリスのもとに、コルセス達が近寄る。

 落ち込んだクリスの相談に乗るのは、もはやこの三人組の日課だ。


「フィラナちゃん、怒らせちゃった……」


 ―――やっぱりか。

 昼の様子を見て、誰もがこの結果を予想していた。

 恐らくは勢いのままにフィラナへとアタックを試み、案の定玉砕したのだろう。


「クリスはグイグイ行き過ぎなのよ、ちょっとは引くってことを覚えて……」


「いや!」


 フレイが助言を口にしようとした瞬間、全力拒否の姿勢をとるクリス。


「えぇ……」


 この変に我が強いところも、クリスらしい所だ。

 これまでも、この強引なプレイスタイルで新参者を友達の輪に率いれることに成功してきたのだ。


 なまじ今までが全勝なだけに、何をいってもクリスは聴かないだろう。


 ―――だが、今回のフィラナは間違いなく、過去最強の存在だ。

 数々のアタックをものともしない強固なぼっち力。

 果たしてこの牙城を、クリスは崩すことはできるのか。


「……と、とにかく!フィラナちゃんに謝ってみたらいいんじゃない?」


 方針の変更を断固拒否しながら落ち込むクリスに、ククリは思わず助言をする。


 ―――クリスが何をいったかは分からないが、大方なんらかの地雷を踏み抜いたに違いない。


「もしかしたらフィラナちゃんも、つい怒っちゃったって後悔してるかもしれないよ?」


 ククリの見立てだと、フィラナは絡みづらい人物であることを自分でも自覚しているように思えた。

 その証拠に、最初にクリスに一方的な友達宣言をかまされたとき、一瞬だが慌てているように見えた。


 ならばここは、直球の謝罪こそが現状最大の可能性なのではないか、と。



「―――確かに!」


 ククリの意見を聞き、クリスが飛び起きる。


 ―――なんとデジャヴな光景だろうか、と誰もが胸のうちに同じ感想を覚えたことには、クリスには知るよしもなかった。


「フィラナちゃんに、あやまってみる!」


 銀髪の少女はそう決心を口にすると、立ち上がり歩き出すモーションに移ろうとした。

 だが、それをコルセスは服を掴んで制止する。


「……でもどうするんだよ、あいつ外でも見かけねぇし、多分自分の部屋だぞ」


 このままクリスを解き放っても、また玉砕して落ち込むという無限ループからは逃れられまい。


「呼び掛けても、出てきてくれそうにないよねー……」


「そうだなぁ……」


 クリスは一瞬思案し、


 ―――即断で方針を決定した。


「……わかった、フィラナちゃんが部屋を出るまで待つ!」


「えぇ!?ダメ元で部屋を訪問するとかじゃないの!?」


 まさかの持久戦の構えに、その場の面々は騒然とする。

 せっかちなことに定評のあるクリスが、よもや自身から消耗戦を仕掛けようなどとは思いもしなかった。


 ―――しかし、クリスがその作戦を選択したのには理由があった。


 彼女には、どうしてもフィラナの自室へ近付けない、重大な理由があったのだ。


「だって―――」


 クリスが、重い口調で口を開く。



「部屋には、フィラナちゃんからお呼ばれされていくのが最初って決めてるから!」



「「「なんだその理由!?」 」」


 クリスの謎自分ルールに、その場に総出で突っ込みをいれる。



 ―――かくして、クリスのフィラナ待ち伏せ実質ストーキング作戦は、決行に移されたのだった。




 ◇◇◇




 仄暗い月夜の中、月光に照らされる宿舎。

 その近くの茂みの中に、クリスは息を殺して潜伏していた。


 ―――目標はフィラナ、ただ一人だ。


 彼女が出てきたその時には、ストーキング。

 そして彼女の目的地にたどり着いたタイミングで何食わぬ顔で登場し、謝罪する。


 それがクリスの考案した完璧かつロマンチックな計画だった。


「―――それで、なんで俺らまで来てんだよ……」


 ―――匍匐状態のクリスのすぐ隣で寝転がりながら、コルセスがぼやく。


「だって不安じゃない!クリスだけじゃ、何を口走るか分かったもんじゃない!」


 そう、結局コルセス達三人組もクリスに着いてくる運びとなったのだ。

 その理由はただひとつ。


 クリス一人に任せると、大抵ろくでもないことになることが確定しているからだ。


「……あれ、わたしもしかしてそんなに信頼ない?」


 きょとんとした顔で、クリスが呟く。


「「「信頼感がありすぎて逆に不安」」」


「そんなハモることある?」


 三人のあまりにも息のあったコンビネーションに、流石のクリスも思わず面喰らう。


 こんなやりとりも、仲が良ければこそだ。

 三人とクリスは、この孤児院の設立当初から集められていた「初期メンバー」の一人だった。


 だが、最初は10人ほどだった「初期メンバー」も今ではこの4人のみ。


 一体、彼らはどこへ―――



 クリスが一瞬そんなことを考えたその最中、ククリが不意に寮を指差す。


「―――あ、ほら!」


 その指の先を三人が見つめると、そこには寮から出てくるフィラナの姿があった。


 月光に照らされた髪は、まるで水晶のように幻想的な雰囲気を醸し出している。


「フィラナちゃんは月夜に映えるなぁ……」


「見とれてる場合か!追いかけるぞ!」


 フィラナの美麗さに陶酔しているクリスを引っ張りながら、面々は追跡を始める。



「どこにいくんだ……?」


 フィラナがやってきたのは城の外郭、普段子供達は入らないように言いつけられている区画だった。

 彼女は脇目も振らずに、その区画へと真っ直ぐ足を踏み入れていく。


 ―――そして、しばらく進入禁止区画を歩いたその先に、フレイはあるものを見つけた。


「あ、あれ―――」


 ―――そこにあったのは、およそこの古城にはとても似つかわしくない物ばかりだった。


 灰色の装甲を持った、大きな車両。

 上部には大きな機銃が取り付けられており、それが戦闘用の車両であることを大きく物語っている。


 また、武装の付いていないトレーラーのような車両もあり、そこには大量の物資が運び込まれている。


「な、なんだよあのでっかい車!?」


「……軍用」


 あわてふためくフレイ、コルセスと、特段驚きを見せないクリスとククリ。


 特にククリの様子は、普段の温厚な彼女とはうって変わった冷静なものだった。


「知ってるのか、ククリ?」


「わたしのお父さん、軍人だったの」


 コルセスの言葉に、機械的とも取れるほどに落ち着いた声で話すククリ。


「……そっか」


 ―――過去に何かあったのだろう。

 だが、詮索はしない。


 この孤児院に来た子供たちは誰もが、人には言えないような壮絶な過去を背負っている。


 ―――当然だ。

 今この星は、世界中の至るところが化け物が蔓延る地獄と化しているのだから。

 だからこそ皆孤児となり、何かを喪ってこの城にやってくる。


 それは此処に居るコルセスやフレイも、そしてククリも例外ではない。

 そして、クリスも―――


「それより!なんであんなのが私たちのお城にいんのよ!」


「知るか!……こうなったらしょうがねぇ」


 コルセスはおもむろに、一台の車両を指差す。

 見るとほとんど積み荷が乗せられておらず、空き箱が多く乗せられている車両がそこにはあった。


 ―――隠れるにはうってつけだ、と彼は思った。

 もしかしたら、その箱もなんらかの用途に使用するでは、などという考えには欠片も想い至らずに。


「―――忍び込むぞ!」


 そうして4人は、荷物がほとんど積まれていないトレーラーの一角へと、忍び込んだのだった。



 ◇◇◇




 少女たちが車両に忍び込んでから、どれほど経っただろうか。

 十数分ほどの間は、ずっと車の激しい揺れをその身に感じていた面々だったが、それも数分前に止んだ。


「大人はもう行ったか……?」


 迂闊に動くのは危険だと身を潜めていた彼らだったが、近くに人の気配がないことを察し、ゆっくりと車から飛び出る。


 見ると、大人たちは皆一様に、なんらかの設備の設営作業を行っていた。


 並べられる電子機器の数々。

 その全てが、城で子供たちの目に見える場所で使われている物とは一線を画した、最新鋭の物であることはすぐに分かった。


「あれ、何してんだろ……」


「知らねぇよ、少なくとも俺らには隠さなきゃいけないことらしいけどな」


 疑問を口にするフレイに、ぶっきらぼうに返すコルセス。

 その瞳は大人たちへの疑念に染まったものだ。


 彼らは一体、自分達に何を隠していたのか。

 この数年間関わってきて、少しは心が開ける間柄になれたと、そう思っていた。


 だが、現実はこれだ。

「先生」などと慕っていた大人達が、城に居る子供達に一切知らせずにこのような怪しい行動を取っていた事実。


 それは彼に再び大人への猜疑心を抱かせるのに、十分すぎるものだった。



 ―――その時、クリスが声をあげる。


「おー……人型ロボット」


 クリスの視線の先を面々が覗くと、大型トレーラーのコンテナ部分が直立し、天井に位置していた部分がゆっくりと開いていく。


 そして内部に格納されていたものが、少しずつその全貌を露にする。


 ―――そこに鎮座していたのは、蒼と白の装甲を持つ巨大な鎧だった。


 鎧、この世界で広く用いられる機動兵器。

 西暦2016年頃から世界中で用いられるようになっていたこのロボットは、ある時期を境に更なる発展を見せていた。


 だが機動鎧コマンドメイル魔動鎧マギアメイル

 その全てが、現代である西暦2517年では残数が僅かとなっていた。


 物資の枯渇、バイラスによる施設の破壊。

 全ての要因が人類の生存を阻害するかのように重なり、もはや人類には戦う為の力がほとんどない。


 とくにマギアメイルは、250年前にその技術が殆ど失伝しており、現在ではその製造は一握りの技術者にしか行えなくなっているのだ。


しかもそこに鎮座している機体は、この世界で用いられている一般的な物よりも、2倍近く巨大に見える。


 ―――そんな貴重な兵器を保持している大人たち。

 となれば、彼らが何に所属しているかなど、もはや考えるまでもない自明の理だ。


「おいおい……いよいよだな」


「先生たちは……軍の人?」


 その言葉に、コルセスは吐き捨てるように遠くから大人たちを睨み付ける。


「―――だとすりゃあ、俺らがなんでこんなところに集められたのか、分かったもんじゃねぇ」


 ―――コルセスは悩む。

 一体、これからどうするか。

 正面から彼らに事情を聞きに行っても、答えるはずがない。

 それどころか、捕らえられて最悪、命を奪われる可能性まで出てきた。


 そうしてコルセスがこの先どうするかを思案していると、誰かが服の裾をつかみ、上擦ったか細い声をあげた。


「わたし……怖いよコルセス……」


 その相手はフレイだ。

 いつもツンケンとして、なにかとコルセスと小競り合いを繰り広げていた彼女。

 だが、目の前に広がる光景と、信じていた大人たちが隠していた真実の前に、彼女が被っていた虚飾の仮面は崩れてしまったらしい。


 ―――フレイの強気な態度は、内心の不安を隠すための裏返しだったのだ。


「……大丈夫、なんかあったら盾になってでもお前らを守ってやっから」


 コルセスは静かにフレイの頭を撫で、優しく語り懸ける。

 フレイも、それを受けて少し落ち着いたように頷き、再び大人たちのほうへと視線を向けた。


「クリス、フィラナはいたか?」


「居た、けど……あのロボットの中に入っていったっきり、出てこないね」


 ―――ならばきっと、フィラナは大人達側の――


 コルセスがそう断言しようとしたその時。




 ―――地面が、大きく揺れた。




「なんだ!?」


 見ると、先程まで設営作業を行っていた大人たちが、皆一様に足がすくんだようにその場に立ち止まり、キョロキョロと挙動不審に辺りを見渡していた。


「大人達が慌ててる……けど、バレた?」


「いや違うだろ、俺ら子供相手にあんなに怯えるこたぁねぇよ」


 すると、遠くから毅然とした声が響く。

 その声は普段の喋り方とは全然違うものだったが、彼ら生徒達にはその声の主が誰なのか、しっかりと伝わった。


「あ、アニータ先生……」


 その声の主、アニータは、辺りの大人達に普段では想像できないような厳しい表情で命令をしていた。

 それを受けて、辺りの大人達は目が覚めたように、所定の持ち場へと急いで走っていく。


「―――やっぱアニータ先生もそっち側か」


「とにかく、ここを―――」


 ククリの言葉に、その場から逃げ去ろうとする面々。



 ―――だが、それは手遅れだった。



 辺りに、何かが割れる音が響く。

 それはまるで、巨大なガラスが破壊されたような激しい音だ。


「ひっ!?」


「なんだ……?」


 それと同時に起こった異常にも、面々はすぐに気づいた。


「空が、揺れてる?」


 見ると、空に写し出されていた夜空がゆらゆらと揺らめき、その色を少しずつ変化させる。



 ―――月の位置が、変わった。



 そしてそれと同時に、何かの動物の叫び声のようなものが、森中へと響き渡ったのだった。


「―――ひっ!?」


「あ、あぁ……」


 その声に、子供達は聞き覚えがあった。


 ―――当然だ、誰が忘れられようか!


 大切な人々を喰い殺した、醜い獣達のおぞましい声を。


「バイラス……!」


 ―――人類の敵、バイラス。

 その到来を告げる遠吠えが、森全体へと響き、子供達の耳のなかに残響のようにしつこくこびりつく。


 そして、ついに。


 ―――接近してくる巨大な獣の足音が、少女達の耳に入ったのだった。


「―――みんな、逃げて!」


「クリス!?なにやってんだ!!!?」


 その瞬間、音のする方向へと、クリスが走り出す。


「あいつらは魔力の高いものを餌にするの、わたしなら囮になれるから!」


「お前、何言って―――」


 コルセスの言葉を無視し、クリスは走り続ける。


 そして最後に、大声で叫んだ。


「早く、逃げて!」


「―――クッソ……!」


「クリス、絶対に生きてろよ!絶対に助けに行くから!」


 そうして、コルセス達は城の方へと、走って逃げ去っていったのだった。



「行った、か」


 コルセスが逃げていく姿を満足げに見送ると、クリスは行動を開始する。



 ―――見ると、既に見える位置に一匹の巨大な獣の姿が見えた。


 大きさは、10mほどだろうか。

 バイラスの中では小型に区分されるサイズのものだが、鎧をもたないクリスにとっては遥かに強大な敵だ。


小さな個体でも、たった一匹で軍用兵器を喰い破るような力を持つ危険な物なのだから、勝ち目など当然ない。


「なんとか……逃げ切る!」


―――だが、時間稼ぎくらいならば、あるいは。


 そう思案したクリスは、獣から見て左手へと、走り去る。

 それを受け、バイラスはその強靭な脚力にて一気に距離を詰め、その強靭な爪にてクリスを引き裂こうとその巨大な腕を振りかざした。


 ―――間一髪。


「あぶなっ!?」


 爪は紙一重で地面を引き裂き、クリスはその隙に獣から距離を取ろうとする。


服が切り裂かれ、腕には浅い一筋の切り傷が浮かぶ。


―――もしも避けきれていなかったら。


 その時だ、大きな悲鳴が聞こえたのは。


「―――この声!?」


 その声は、クリスがよく知る人物。


 ―――先程まで、彼女と共にいた少年のものだった。




 ◇◇◇




「……くそぉ……!」


「―――コルセス!?コルセス!」


 一人の少年と、二人の少女。

 彼らは数匹の獣の前で、為す術もなく立ち止まることを強いられていた。


 逃げる隙など、有りはしない。


 目前の獣はあるものを咥えながら嘲笑うような瞳で、眼下のニンゲン達を見下していた。


「―――腕が……」


 ―――獣が喰らっているのは、コルセスの左腕だ。


 クリスと分かれてすぐ、彼らは別の方角から現れたバイラスと遭遇してしまった。


その数は三体。そんなものを見てしまえば、足がすくむのも無理もない。


―――そう、フレイが衝撃のあまり、固まってしまったのだ。


 そして獣の襲撃により真っ先に標的にされたのは、当然にも足がすくんでしまったフレイだった。


『―――危ないッ!』


 真っ直ぐ襲い掛かる獣を前にしたフレイを、コルセスは咄嗟に突き飛ばした。


 ―――その結果が、これだ。

ひどく、あっさりと取れた右腕。


「俺、は……置いてけ……二人は……」


 流れ出る血は、止まりはしない。

 ―――そんな状況下でも彼は、二人の身の安全だけを考えていた。


「でも!あんたが居なくなったら、私……!」


 フレイは涙を流しながら、コルセスの傍らに寄り添う。

 ククリもなんとかコルセスの血を止めようと、自身の上着等を破り止血をしようと苦戦する。


 そんな、生きるための必死な足掻きを、獣達はただ嘲笑うように見つめ続けていた。


 ―――その光景を見たクリスは、最早、平静ではいられなかった。


「な、なんで、まだこんなところに……」


 先程分かれて、すぐに獣に襲われてしまったのか。

 これでは、二手に別れてしまった意味がない。


 ―――助けねば。


 ―――助けねば。


 ―――助けなければ。


「なにか、武器は―――」


 だが、目の前の獣に立ち向かうための武器を、クリスは持ち合わせていなかった。


「たす、けなきゃ……!」


 だが、それでも。


 ――――助けることが出来なければ、自分に価値なんかない―――!


「―――わたしに、ちからが……!」


 求めるのは力だ。


 それも、自分を守るための力などではない。


 きっとそれは、誰かを助けるためだけの―――



 ―――瞬間、脳裏に何か、誰かの声が響いた気がした。


『―――請け負った』





 ―――辺りに、雷の如き閃光が走った。

 光が発されたのと同時に、辺りを暴風が吹き荒れ、木々を大きく揺らす。

 それはまるで、何か巨大なモノが、目前に降り立ったような―――



「―――!?」


 クリスは目も開けられずに、思わず倒れそうになる。




 ゆっくり、とクリスが瞳を開く。


「――――――!?」


 ―――そこに居たのは、黒い巨人だった。

 鋭利な装甲と、巨大な翼。

 そして各部に積まれた数多の近接兵装が印象的なその姿は、一見機械ではなく魔物を連想させる。

 ―――四つ目の黒き巨人は、その瞳を光らせる。

 それはまるで、目前の獣への宣戦布告のようだった。


 肩に配置されていた黒い湾曲した刃を展開した巨人は、異形の生物の前に躍り出る。


 ―――刹那。

 機体から斬擊が振るわれる。


 振るわれた刀の太刀筋は、光波となり発された。

 だが、バイラス達の体躯、その表面から反発するような力場が発されたかと思うと、一瞬の抵抗によりその光は空中へと残留する。


 ―――だが、それも一瞬だ。

 光はゆっくりと、しかし確実に力場を侵し、進み、切り裂く。


 そして斬擊が体表に到達した瞬間、バイラスの身体は一部分ずつ、細切れの肉片へと変じて行った。


 ―――一凪ぎの元にその一切、魔力への絶対耐性すらをも無に還す。

 それこそが、この遺骸兵器パストメイルの特性だった。


「あ、あぁ―――」


 呆然とするクリス。

 そんな彼女に、巨大な鎧から声が発される。


『―――』


『―――君が、私を呼んだ接続者リンカーか』




 ―――その出会いは、善なる物か、悪なる物か。

それは誰にも分からないが、ただひとつ分かること。


―――それは、これが少年少女達の命運にとって、大きな分岐点となったことだけであった。







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