雪の泉
四葉くらめ
雪の泉
その日は雪が降っていた。今年初めての雪で、地面は瞬く間にその色を白へと変えていった。いつもは寒くて炬燵に入り浸っている僕も雪となると気分が揚々とし、何度も窓の外を見て、気付いたときには靴を履いて外へと駈け出していた。しかし外に出てみるとやっぱり寒くて、僕の足はすぐに速度を下げ、しきりに体を震わせながらゆっくりと歩いた。
目的も無く歩いていると公園に辿り着いた。いつもは近所の子供達がサッカーなどで遊んでいるのだがもちろん今日はいない。代わりに一人の少女が公園の真ん中で腕を大きく広げ空を見上げていた。何故この少女は空を見上げているのか。こんな雪の日の空を見ても灰色の空が広がっているだけであろうに。
「何をしているんだい?」
少女に近づき聞いてみた。近づいてみると少女はセーラー服を着ていることが分かった。恐らく中学一年生ぐらいではなかろうか。少女の笑顔はあどけなく、無垢だった。
「雪をね、見てるの」
若干舌足らずな口調でそう言った。雪なんて足元に沢山あるではないか。
「もちろん地面の雪も好きよ。おじさんの肩に載った雪も今目の前を落ちる雪も皆好き。でも私は空から湧き出てくる雪が好きなの。こうやって手を広げればまるで空の泉が私の物のように感じるわ!」
なるほど確かに、手を広げて上を見れば空の全てが自分の物のように感じるかもしれない。
風邪を引かないように注意してから僕は公園を去った。後ろを振り向くとまだ少女が上を見上げている。家に帰り炬燵に入ったところで僕は足跡が僕の物しかなかったことに気付いた。ああ、今日は寒い。
〈了〉
雪の泉 四葉くらめ @kurame_yotsuba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます