彼が《恨み》を数え終わることはない

恨みを買い続ける謎の男《ルーシー》……
その恨みがどのような由縁であろうと、彼は依頼人のかわりに復讐をする。恨みは決してなくなることはなく、増え続ける。故に彼は、恨みをただ数えるのだ。

人間そのものが理にかなったいきものではないように、人間が持ちうる恨みもまた節義や倫理にかなったものとはいえません。逆恨みもあれば、冤罪による恨みもある。恨まれるものが悪で、恨む側が善であるとはかぎりません。
復讐を買って出る彼もまた、法律という基準のもとではあきらかに有罪ですが、その本質は善でもなく、悪でもなく、まして正義でもないのです。敢えていうならば、善か、悪か、という基準で考えることが、既に主観なのかもしれません。

余談ですが、創世記に書かれた《禁断の果実》とは《善悪の知識の木の実》だったといわれています。善悪を判断する、ということは人の原罪にもかかわる、危険な行為なのです。
それでも人は、《善》か《悪》かを決めずにはいられない。《善》なる救いを求め、《悪》なるものの滅びを願わずにはいられない。
それが恨みの連鎖を産み続けるとしても。

短編ながら非常に書きこまれ、様々なことを考えさせられる小説です。善悪、罪と罰、裁きと救済などの題材に興味がある大人の読書様に是非とも読んでいただきたいです。

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