恨みを買い続ける謎の男《ルーシー》……
その恨みがどのような由縁であろうと、彼は依頼人のかわりに復讐をする。恨みは決してなくなることはなく、増え続ける。故に彼は、恨みをただ数えるのだ。
人間そのものが理にかなったいきものではないように、人間が持ちうる恨みもまた節義や倫理にかなったものとはいえません。逆恨みもあれば、冤罪による恨みもある。恨まれるものが悪で、恨む側が善であるとはかぎりません。
復讐を買って出る彼もまた、法律という基準のもとではあきらかに有罪ですが、その本質は善でもなく、悪でもなく、まして正義でもないのです。敢えていうならば、善か、悪か、という基準で考えることが、既に主観なのかもしれません。
余談ですが、創世記に書かれた《禁断の果実》とは《善悪の知識の木の実》だったといわれています。善悪を判断する、ということは人の原罪にもかかわる、危険な行為なのです。
それでも人は、《善》か《悪》かを決めずにはいられない。《善》なる救いを求め、《悪》なるものの滅びを願わずにはいられない。
それが恨みの連鎖を産み続けるとしても。
短編ながら非常に書きこまれ、様々なことを考えさせられる小説です。善悪、罪と罰、裁きと救済などの題材に興味がある大人の読書様に是非とも読んでいただきたいです。
葬儀屋で働く主人公のもう一つの顔は復讐代行屋。
それだけでもワクワクしそうなのに、作者の手によって進んでいく文面にはそれだけではない何かが見え隠れしてくる。
恨み、買います。
キャッチーな台詞に熱量のない冷徹な主人公ルーシーのキャラクターにどんどん惹かれてしまいました。
ルーシーの目的は何なのか、なんでこんなことをしているのか最後の最後まで分かりません。
でも展開はどんどん進んでいくからスクロールする指が止まりません。
そのナチュラルな引っ張り方がズルい・・・。
そして本当のラストで点と点が結びつき「そう来たか・・・」とひとりスマホの前で唸ってしまう。
ヒーローでも悪でも神でもない、ルーシーという人間の過去、現在、そして未来を魅せる物語でした。
増黒さんの何かの歌詞になりそうなくらいかっこいい文章が気に入っています。
トラブル発生にて完読が遅くなりました(笑)
とても面白かったです。
ルーシーという男。彼はただただ、人の恨みを買う。すくいとるように買っていく。
恨みを題材に描かれた本作。淡々とした静かな文章は内容にも伴って冷たく、また読者にじわじわと恐怖を与えることでしょう。しかし、これは単に恐怖を煽るものではなく、深く濃い人間の闇を描いたドラマであるのだと思います。
ルーシーの生き方に、共感は出来ないかもしれない。でも、心に訴えかけるものがある。
恨みの種がまかれた後、人は怒りに狂う生き物です。その場合、対象の人生を止めることも厭わない。人間というのはつくづく難しいですね。考えさせられました。
短いながら、一話一話が濃いので読み応えがあると思います。
また、この作品を映像で観てみたいなあと、ダークな作品が大好きな私なんかはそう思ってしまうのですが、深夜帯の連続ドラマで放送されたりしませんかね…それくらいのめり込んでしまいました。
ルーシーと呼ばれる男はただひたすら人間を殺し続けます。
闇から闇へと渡り歩きながら、ただ淡々と人を殺し続けます。
殺されるのはひとから恨みを買った人間です。
しかし読み進めていくうちにひとから恨みを買った人間とは義賊的なヒーローに殺される悪役ではないことが分かってきます。
恨みとは何か。
人は何のために生き、そして死ぬのか。
そこに意味などないのではないか。
ルーシーはけして正義ではありません。
ただ人を殺し続ける男です。
「恨まれることは恐ろしい」とか、「恨みを買った奴は悪だ」とか、そんな単純な話ではなく、同時に、復讐をするということはどういうことなのか考えさせられます。
恨みはいつまでも続くのです。
恨みのリサイクルということば、胸に刻みつけられました。