第13話
朝起きて美雪と朝食を食べながら、テレビを見ていた。まだ新井が動くのはもう少し後だろう。
「新井は今日動くのよね? その後はどうするつもり?」
「俺もそれを考えていた、新井は完全に俺にビビっているし、山崎を殺ったら大人しくなるだろうから、後は西川をどうにかしないと厄介だ」
「でも姿を現さなくなったじゃない?」
「だがプロの殺し屋だ、放おっておくには危険すぎる、最後の仕事だやり遂げるさ」
ニュース速報が入った。
「新井組の幹部の山崎茂と組員八名が死亡、部下が発見、新井組に事情聴取が始まりました。警察は手口から同一犯の仕業と断定し捜索を開始しました」
「手口は一緒だけれども、あなたじゃないわね、あなたは人殺しはしないって約束覚えてるもの」
「ああ、昨日も祐介に言った様に、俺がやった方法で片を付けるって言ってたからな」
祐介から電話が入る。
「神崎さんの言った通り今日でしたね
「そうだな、夕方くらいかと目星をつけていたんだが予想より早かった。今から親父さんにも連絡する」
「わかりました」
続けて幸之助に連絡する。
「君の言ってた通りじゃな、細かい話は今日会ってからしようじゃないか」
「そうしましょう」
電話が切れた。
事務所に入ると涼子と挨拶を交わしデスクに座る、テレビを付けるが、何も流れない。
今新井に電話を掛けるのは止めた方がいいだろう、警察もいるだろうし面倒な事になりそうだ。
タバコに火を付け考える、山崎と組員八人
の計九人がいなくなった新井組の残りの組員は少ないだろう、水谷グループにも関わりを持たなくなった。放おっておいてもいいだろうがケジメは付けたい、葛藤していた。
だが西川だけはなんとかしないと駄目だ。山崎との契約はきれているのに何故いるのかわからない。真知子を殺したのはどうでもいいが、何故山口を襲ったのか? 水谷グループに関わりを持とうとしているのがわかる。
何が目的かまではわからない。山口を襲った事だけは許さない。
考え込んでいる間に十二時を回っていた、涼子は弁当を食べていた。
「俺も飯を食べて来るよ、そのまま出掛けます」
「いってらっしゃい」
レストランの駐車場に車を止め、思い直して新井に電話を掛けた。
「俺だ、警察はいるか?」
「あんたか、警察は外部の犯行と思ってる。もう帰った」
「山崎からは何か聞き出せたか?」
「ああ、やはりプロを雇っていたみたいだ、そいつがまだどこかに隠れているかもと最後に話した」
「坊主頭の西川だろ?」
「何故知っている? まあいいその通りだ。あんたは何でも知っているな。あんたもプロの殺し屋の一人なのか?」
「いや、俺は一般人だが荒っぽい事もする」
「にしてはやり方が残忍過ぎるし力も強い、俺も見てて気分が悪くなった。あんなやり方はもうしたくない」
「山崎を含め九人もいなくなったが、お前の組は大丈夫なのか?」
「もう残りは少ない、組として機能しないだろう」
「お前が組をたためば俺はもうあんたを狙うのを止める、続けるなら寒川と同じ目に合わす」
「資金も底をつき始めている上に、組員も残り数人だ、みんな恐れている。それにあんたに右手一本で勝てる自信もない、たたむ方向で進める。あんた一人に組を潰されたんだ」
「西川を放おっておくと、あいつもお前を殺しに来るかも知れんぞ」
「あんたが片付けてくれないか?」
「お前が殺られたら考えよう、ヒントをやろう、西川は港近くの民家に隠れている」
「詳しいな、探偵か何かか? まあいい組をたたむまでに西川を探し出す」
「わかった時間をやろうじゃないか、また掛ける」
うまい具合に新井は話に乗って来た、新井に西川が殺せるとは思ってはいないが、居所を掴むチャンスかもしれない。新井が殺されればまた一つ仕事が減る。
レストランで食事をし、コーヒーを飲んで時間を潰した。
いつの間にかうとうとしていた、美雪に起こされた。
「あなた時間よ、行きましょ」
「わかった」
病室に着くと祐介まで揃っている。
「みんないるな、ちょうどいい、話がある」
「神崎君、食事が終わるまで待ってくれんかのう、この食事が毎日の楽しみなんじゃ」
「いいでしょう」
二人は黙々と食事を楽しんでいる。美雪と京子はお喋りに夢中だ。天野と祐介だけが暇そうにしていた。
十五分程で食事が終わり、美雪と食事について話している。今日は魚料理の様だ。
「さて、神崎君の話を聞こうじゃないか」
みんなが俺を注目している、俺は座ったまま話し出す。
「まずは、今朝新井組の山崎を初め全員で九人殺されたのは知っていると思うが、あれは俺が新井に、西川を雇ったのは山崎だと教えてやった結果だ。新井は西川に左腕を切り落とされているその復讐だ、その結果組員が足りなくなり資金も底をつき始めている。新井は俺を恐れている、そこで話を持ちかけた。組を解散し組がなくなれば俺は新井を襲わない、続けるなら潰すとな」
一息入れコーヒーを飲んで話を再開する、口を挟む者はいなかった。
「そして、新井に西川の居場所のヒントをやった、新井組に勝ち目はないが俺にやられるくらいなら最後に西川に復讐してから解散するとうまい具合に乗って来た。上手くやれば西川の隠れ家がわかるかもしれない、わからなくても新井たちは西川に殺られるだろう、どちらに転んでも俺の仕事が一つ減る事になりやりやすくなる。以上だ意見は何かあるかね?」
幸之助が話し出す。
「実に上手いやり方だ、そこまで知恵が回るとは流石じゃ、誰も真似は出来まい」
「神崎さん私も会長と同意見です。神崎さんがグループに入ってくれたお陰ですね、敵に回すと怖い人だ」
山口も感心している。
「うむ、先日も言ったが、祐介が惚れ込んだ男だが荒っぽいだけではないのう、頭も切れる。探偵にしておくのは勿体無い」
祐介は胸を張る。
「お父さん山口さんちょっとは僕を見直しました?」
「見る目は確かだが、お前が動いているわけではないぞ。神崎君が全てを片付けてくれてるんじゃ、お前が威張ってどうする。呆れたやつじゃ」
「すいません」
「会長、坊っちゃんが選んだ人が神崎さんで良かったじゃないですか」
「そこは認める。じゃが神崎君もう少しだからと気を抜かないでくれたまえ。下っ端とは言っても西川はプロじゃ、死ぬんじゃないぞこれも依頼内容に入っておるんじゃ」
「大丈夫ですよ、ただ無傷では終わらないと思ってますよ」
「珍しく弱音を吐くのう」
「弱音ではないです、西川はナイフから刀まで使うプロです、俺は武器は持たない主義なんで」
「ナイフ相手に素手で戦うつもりかね、無謀な事だと思わんのかね? 何ならうちで用意してもいいんじゃぞ」
「今までもそうやって来ました、必要なら現地調達するまでですよ」
「拳銃を持っていたらどうするんじゃ?」
「西川が拳銃を使うとは思えません、プロの意地というのを持っていればの話ですが」
京子が話しだした。
「聞いた話しですが、拳銃使わないから雇うと山崎が言ってました。拳銃は目立つから駄目だと」
「他に何か言ってなかったか?」
「そこまでしかわかりません、その話に夢中になってる隙を突いて私は逃げましたから」
「なるほど、それがあったから、真知子は逃げられないように軟禁されていたと言うわけだ。話の辻褄が合う」
「あまり役に立てずすいません」
「いや、貴重な情報だ。助かる。」
俺は暫く考え。
「新井に電話します、皆黙っておいてくれ、声を出すんじゃないぞ」
そう言って新井の携帯に掛ける。みんなが話を聞けるようにスピーカー通話にした。
「俺だ」
「またあんたか、あんたから電話が掛かって来ると寿命が縮む、今度は何かな?」
「港に隠してた武器庫二つと覚せい剤を密告したのも俺だ」
「やっぱりな、こんな事が出来るのはあんたしかいないからな。別に今はもう恨んではいない」
「後あれだけ大量に武器を持っていたんだ、まだあるんじゃないか? 別に密告したりはしない正直に答えないとわかってるなだろうな?」
「あんたには正直に答えるよ、寒川みたいにされたくはないからな。拳銃が三丁とナイフと刀も三本ずつしか残ってはいない。あんたには拳銃を持っても勝てはしないだろう、今更何だい、拳銃が欲しければ手配するが」
「俺は武器は持たない主義でな」
「じゃあどうして聞いた?」
「西川は拳銃は使わないが刃物一般を扱うプロだ、西川を探すなら部下に拳銃を持たせた方がいい、足に一発ぶち込んだら多少俺がやりやすくなる」
「そういう事か、わかった組をたたむ時は武器は海に捨てるよ、でないと寒川にされそうだ、それだけは勘弁して欲しい、あんたはヤクザよりも残忍で俺は怖い。カタギに戻るよ。俺はあんたほど怖い相手は初めてだ」
「いい選択だ、また掛ける
電話を切ると皆が安堵のため息をついた。
「これが、神崎君のやり方か、私もヤクザよりも君が怖いわい」
「お父様、私もです。あれだけ賑わっていた寒川組や新井組が歯が立たない理由がわかりました」
「会長、私も西川に狙われた時より恐怖を感じました」
「俺は相手に合わせた話し方をしただけですよ、こういう仕事をしてると自然とこうなりますよ、舐められちゃ仕事になりませんからね」
「根は優しいですよ、子供みたいですわ」
美雪のフォローが入る。
「水谷グループから俺を排除するなら今のうちですよ」
「そんな事はせんわい、ますます気に入ったんじゃ」
皆が笑顔で頷く。
今日は昼から事務所に行く事にした。
昼までのんびりと美雪と過ごす、新井組が勝手に動いてくれる、山崎の息子たちから二台携帯を没収しているのを思い出し車から取り出す。登の携帯ともう一台は海に捨てた。どちらが誰の携帯かわからない二台とも充電し両方の携帯にも新井の番号が載っている。試しに掛けてみる、解約されてるみたいだ、もう一台でも掛けてみる、繋がった。
「俺だ」
「びっっくりした、山崎の息子の携帯からじゃないか? 痛めつけた後回収しておいたのか?」
「そうだ、まだ俺の連絡先を教える訳にはいかないんでな。西川の事がわかればこの携帯に掛けてくれ、用事はそれだけだ」
「待ってくれ、西川の足取りが掴めたんだ、毎晩十八時に港の近くのコンビニで食料やタバコを買っているそうだ、うちは今日か明日動く、進展があれば、この番号に掛ければいいんだな?」
「ああ、繋がらなくなったらこちらから掛ける、お前が殺されないように注意しろよ」
「俺は右手一本だ、事務所で待機しておく」
「わかった、報告を待っている」
電話を切ったが、新井が事務所にいたら危ないんじゃないか? と思ったが。俺が新井を助けるなんて事はあり得ない、放おっておく事に決めた。
昼過ぎには美雪と病院に向かう、これが日課になっていた。今日はキーマカレーの様だ。
「山口さんのは辛め、幸之助さんには喉に負担が掛からないように少し甘めに作って来ました」
「やはり美雪さんは気が利くのう、ありがたい事じゃ、早速食べさせて貰おうじゃないか」
「これは美味しいですね」
珍しく山口は急いで食べている。
「山口さん傷に響きますわ」
「もう痛みは無いんです、介護が無くてもトイレに一人で行けるまで回復しました」
「山口さんの傷は綺麗に切られていましたから、治りが早いんでしょう」
「神崎さん、医者と同じ事を言うんですね」
「俺も経験ありますからね」
二人共ペロリと平らげてしまった、六十を超えている様には思えない、見た目も若い。
そこへ京子が早足で入ってくる。
「山口さん、私ミスをしたかもしれません」
「見せてください」
京子が書類を取り出す。
「京子さんこれはミスではありません、寧ろよくここまで出来たと感心しますよ。会長私が退院したらほとんど京子さんに任せようと思います、女性らしく細かいとこまできっちりこなしています」
「私は構わんよ、私も祐介が瞳さんと結婚したら、隠居しようと思う取った。今まで三十年以上私ら二人でやって来たんじゃ引退も二人同時にしようじゃないか、これからは若い世代に託そうじゃないか」
「そうですね、私達の出番も後数年で終わらせましょう」
「そうじゃ、忘れとった。神崎君、年に一度の水谷グループの総会には出来るだけ出席するように、美雪さんもじゃぞ」
「面倒なのは嫌ですよ」
「何、株主総会みたいなもんじゃ、一時間もかからんわい、次の総会では次期会長の祐介と、山口の代わりの京子のお披露目会みたいなもんじゃ」
「それくらいなら出ますよ、あいつがどれくらい信用されるか楽しみにしときましょう」
「私は毎回ちゃんと出ますわ」
「そうしてくれたまえ、同じグループ同士の顔合わせも兼ねておる」
「俺は顔が知れ渡ると仕事に支障が出るんだが」
「探偵と明かさなければ良い、美雪さんの旦那として通せばいいじゃろ。それに社長連中しか集まらん小規模な総会じゃ顔がバレても心配は要らん」
「わかりましたよ、スーツですか?」
「窮屈だろうが正装で来てくれたまえ、無理にとは言わんが」
やっと話は終わったようだ。
「今日はもう帰りますよ、仕事がある」
「じゃあまた来ますわ」
車で美雪を送りコーヒーを頼む。
「あら、お仕事じゃなかったの?」
「今も仕事中だ、連絡待ちと言ったとこだ」
まだまだ時間はある、祐介に掛ける。
「神崎さん、どうしました?」
「親父さんにグループの総会に出ろと言われたよ。お前も出た事あるのか?」
「グループ総会は基本一年に一度です、俺は十八歳の時から出ていますよ」
「次の総会でお前と京子のお披露目会をするらしいぞ、瞳も出るのか?」
「初耳です。ですが知った顔の人達です、安心して下さい。ですがお披露目会となると、俺も何か話をしないといけないですね。考えておきます。後瞳が予定より早く明日にでも帰って来るみたいです」
「そうかわかった、しかしやけにあっさりしているな」
「近い内にこうなるとは思ってましたから、それと天野さんも毎回出てますよ。一ヶ月前には事前連絡があるので美雪さんと来てくださいね」
「わかった、また掛ける」
それからも結構待ったが、新井からの連絡はなかった。
美雪がドリアを運んできた。
「もうこんな時間よ一緒に食べましょ」
「祐介の婚約者の瞳が明日にでも帰って来るらしい」
「何かあったのかしら? 予定では半年後だったわよね」
「そこはわからんが、何かあっったような口ぶりではなかった、単に勉強が早くおわったんだろう」
「ならいいわ」
結局連絡はなく、無事に帰路についた。
翌日も穏やかな一日だったが、夕方に祐介から連絡が入った。
「神崎さん、今から山口さんの病室に来れますか?」
「構わないが何あったのか?」
「いえ、瞳が帰ってきたので会って貰おうと思ったんです」
「わかった、美雪も連れて行こう」
電話を切ると美雪は何も言わず、出掛ける準備を整えた。
「祐介君からでしょ? 瞳さんが帰って来たようね」
やはり感が鋭い。
病室に着くと全員集まっている。見慣れない女がいる、瞳だろう。
「初めまして、祐介さんの婚約者の川田瞳です。今回の事は全部聞いております。私からもお礼を申し上げます」
京子は美人系だが、瞳は目がくりっとしていて可愛い系の女だった。名刺を貰った。
「初めましてだな、よろしく頼むよ」
「あら、凄く口が悪いと聞いてましたが、普通の方でしたね。そちらが神崎さんの婚約者の美雪さんですか?」
「初めまして、この人の婚約者の神戸美雪です、これからよろしくおねがいします」
他の者は全員知っているようだった。
「何故俺まで呼んだんです?」
「水谷グループの顧問探偵で今回の事件、ヤクザを潰したり、祐介さんや山口さんを助けてくれたからです」
「真知子さんはどうしようもなかったのでしょうか? あっ、京子さんごめんなさい」
「瞳ちゃん、いいのよ。もう死んだ人だし血縁関係も切った人よ。私はもう水谷京子なのよ、心配しないで、殺されて当然の事をしたわバチが当たったのよ」
「そうでしたわね」
幸之助と山口が話し出す。
「神崎君、実際会ってみてどうかね、あんたは自分の目で確認しないと信用出来ないらしいじゃないか?」
「ええ大丈夫そうです。品がありますね」
「瞳お嬢様は見た目は幼いですが立派な方ですよ」
「山口さん、見て話せばわかりましたよ。ところで瞳さんは何故急に帰ってきたんだ?」
「もう学ぶ事がなくなりましたし、叔父様たちが心配で。後呼び捨てで構いませんよ」
「そうか、じゃあ瞳、京子とは上手くやっていけそうか?」
「もちろんです、幼い頃からの付き合いですから」
「それなら問題ないな、父親の康さんはどうしてる?」
「今日一緒に来る予定だったのですが、急用が入りまして、すいません」
「神崎君、心配しなくとも総会で会えるじゃろ。康君も忙しい人じゃ私も暫く会っておらん」
「わかりましたよ、話は変わるが今のところ瞳は新井や西川から見れば部外者だ、安心してていいぞ」
「わかりました、ご心配お掛けします」
電話が鳴った。
「みんな静かに、新井からだ」
皆が頷く、スピーカー通話にした
「俺だ、どうした」
「うちの者が三人西川に殺られた、一人が拳銃で撃った、西川はどこか負傷している、青い屋根のアパートだ。ここまでが限界だ、もう組は潰れたも同然だ。カタギに戻るよ」
「わかった、お前を潰すのは止めておこう」
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