第2話

 寒川登の家はすぐに見つかった。


 情報屋に金を握らせると何でもペラペラ喋る、家の場所や取り巻きが三人いる事祐介を探している事などだ。


 市内の山手のマンションだった、寒川組の次期組長候補の一人だ。駅前に祐介のマンションと駅が見える場所に車を停めた。数時間待った、祐介は出てこない。


 更に待っているとベンツが停まる、四人のチンピラ風の男が降りてきて例の情報屋と話をしている。寒川登はすぐにわかった、若い頃の雅史と瓜二つだ。四人が車に乗り込み走り出す、俺も車で尾行する。


 港へ向かっているようだ、距離を開けて付けるベンツが止まったので迂回し車を隠し、バレないように歩いて近づく。


 話し声が聞こえるところに隠れる、


「拳銃は駄目だ、親父がうるさい」

「ナイフを持って行く確実に殺せ」


 恐らく祐介の事だろう。

 登の顔を見た時にまた頭に血が上る。


 近づいていく、向こうもこちらに気付く。


「おい、おっさんどっか行け殺すぞ」


 さらに近づく


「寒川組のもんだそれ以上近づいたらタダじゃおかねぇぞ」


 一人が近づいて来る、下段の蹴りで倒れたところで顔面を力いっぱい蹴り上げた、倒れたままぶっ飛び失神している。


 三人がナイフを持って身構える、ナイフの動きに注意する動きは素人だが、殺そうとする殺気は本物だった。


「山内、殺れ」


 山内と呼ばれた男が向かって来る、手首を狙い蹴りを放つ、呆気なくナイフは手から落ちる、拾い上げようとしゃがみ込む瞬間に顎を蹴り上げる、白目を向いて痙攣している。


「山崎二人で殺るぞ」


 俺はまだ手を使っていない蹴りだけで二人倒した、二人は蹴りに注意しながらナイフを突き出す、躱して山崎をストレートのパンチで顎を打つ、倒れ掛かったところをアッパーで追い打ちをかける、ダウンした。


 残りは登一人だ。


「どこの組のもんだ? 寒川組を舐めると後で後悔する事にるぞ」

「出来るもんならしてみろ、お前ら四人は今ここで魚のエサになってもらう」


 登は完全にビビっている、ナイフを振り回してくる、雅史の息子にしては度胸が足りない、全て上半身のみで躱すとジャブを打つ、それだけで鼻血が吹き出す、完全に怯んでいる、右フックを腹にぶち込むとしゃがみ込んで嘔吐している、呼吸が上手く出来ていないようだ。


「お前の親父と因縁があってな、悪いがお前に代わりになってもらう」

「待ってくれ、親父が何したか知らねぇけど俺は親父とは違う」


 喋っているところに顎を蹴り上げた、舌を噛み切ったようだ、舌の半分くらいが地面に落ちた俺はまだ物足りない、倒れたところの顔面に何発も力を込め蹴りを入れる、悲鳴を上げるが止めない。鼻は潰れ口も裂け右の眼球が半分飛び出している。眼球を踏み潰す。


 何か喋ろうとしているが舌が千切れているので聞き取れない、更に蹴り続けると左目も潰れたようだ、落ちたナイフを拾い上げ両肘と両膝の腱を切る。こいつはもう一生喋る事も見る事も手足を使う事も出来ないはずだ。


 他の三人も同じようにした、悲鳴が響く。四人とも引きずり集め順番にアキレス腱も切っておいた。これでもうこの四人は今後一生介護なしでは動けない、俺がやったとも話せない。


 コンテナに隠してあった銃やナイフはそのままにし、拳銃の玉だけ全部海に捨てる。


 三人の携帯を取り出し、そのうちの一台で警察に電話した。


「港のコンテナに寒川組の武器庫がある、水谷祐介の噂は寒川組のデマだった」


 と言って携帯を海に捨てる。


 登たちを殺してしまうと厄介なので登の携帯を取り出し、親父と出ているアドレスに電話する、アドレスはタバコの箱にメモした。


 すぐに出た、開口一番に、


「祐介を殺ったのか?」


 と聞いてくる。

 黙っていた。


「おいお前登じゃないな? 誰だてめぇ」

「察しがいいね、雅史」

「誰だてめぇは、なぜ登の携帯を使ってるんだ?」

「遙か昔お前にリンチされた者だよ、登と仲間三人は死んだも同然だ、港に置いて行く、今ならまだ死なずに済むかもな。お前に対しての復讐と水谷真知子に関わった罰さ」


 と言って携帯を海に捨てた。残り二台は何かに使えるかもしれない、俺の車に隠す。


 すぐに車に乗り急いで家に帰るとすぐにシャワーを浴びる、今頃警察と寒川組が鉢合わせているだろう、本当の復讐は雅史だが今はこれでいい。


 シャワーを終えると祐介に電話をした。


「もう出歩いても寒川組の登と仲間は現れないから安心していいぞ。警察も大丈夫だ」

「何かしたんですか?」

「ニュースを見ればわかる、寒川組とつるんでいるらしいお前の義母も少しは大人しくなるだろう」


 と言って電話を切った


 テレビを付けると緊急ニュース速報が流れている、『警察が寒川組の武器倉庫発見、組同士の対立か、四人が瀕死で見つかる』、テレビを消す、人殺しにならずに済んだのと寒川に半分復讐出来た事に喜びを感じた。


 すぐに祐介から電話がかかってきた。


「神崎さんがやったのですか?」

「ああ、そうだ。寒川雅史へ私怨があると言ったろ、明日の新聞記事にはもっと大体的に載るぞ、おまえの義母も危ないかもしれん」

「詳しく教えてくれませんか?」

「電話じゃ話しにくい、レストラン『トライアングル』を知ってるか?」

「はい、週に一度は通ってます」

「十九時に待ってる」


 電話を切り時計を見る十七時だった、少ないがシャツに返り血を浴びている、ビニール袋に入れ車に隠す。

 靴も血まみれだったので洗面所で洗い干しておく、気分は良かった。

 十九時前にトライアングルに着いた。


「あなたのお客さんよ、水谷グループの御曹司よ」


 と言って美雪が席へ案内する。


「適当に何か食わせてくれ」

「用意するわ」


 と奥へ消えていった。


「神崎さんの恋人ですか?」

「ああ、一緒に住んでいる」

「いいですね、毎日の食事が美味しそうだ」「こ事変わらんよ」

「なおさらいいじゃないですか」


 ステーキとサラダが運ばれてきた。祐介はハンバーグを食べている。


「で、寒川登と取り巻きはどうしたんです? 大怪我らしいですけど」

「気分が悪くなるかもしれん、お前が食い終わったら話そう」


 二人で黙々と食事を済ませた。コーヒーが二人分運ばれてくる。美雪が話す。


「こちらのお客さん毎週来てくださるのよ、今回の依頼は幸之助さんの息子さんだったのね」

「らしいな、金持ちのボンボンだ」


 満足気に美雪は奥に戻る


「さて、話そうか途中で吐くなよ」


 と前置きして、始めから細かく話してやった。祐介は聞き入っていた。


「神崎さん、ちょっと酷いですね」

「あれくらいしておかないと後で返り討ちにされるからな」

「見えない話せない動けないじゃ、もう廃人同然ですね」

「ああ、一生あのままだ、運が良ければ何とか手足は動くようにはなるだろう」

「義母も危ないって言ってましたよね」

「そうだ、お前の事を持ち込んだ結果がこれだ、怒り狂った寒川組に何をされるかわからんぞ、姉の方もだ」

「俺は構いません、姉は別として真知子さんは家族だなんて思った事すらないですから」

「なら安心した、警察にお前の事を言っておいた。お前に関わるのを今後止めるだろう、後は怒った寒川組を潰し、お前の義母と姉を食い止めればいい、どう出てくるかまではわからないから、お前は今の生活を暫く続けてくれ」


 祐介は笑顔ではいと言ってコーヒーを飲んでいる、俺は話は終わりだといいタバコに火を付けた。


「このまま丸く収まればいいんですが」

「丸く収めるなら、水谷グループと親父さんの遺産はお前の物になるって事だぞ」

「そうですね、でも俺は遺産なんかに興味はありません、知っての通りもうお金は十分にあります、好きな事をやりたいです」

「お前も物好きだな」

「たまたま親が資産家だったってだけの話です」

「水谷グループの社員全員の生活がかかってるんだぞ」

「もし跡を継いだら、その時に考えますよ」「わかった、送ろう」


 と言いタバコを揉み消した。


「会計してきます」

「いやいいんだ」


 財布を持った手を止めた。


 祐介を送り家に帰って、ニュース番組を探したがバラエティー番組ばかりだった。そうこうしてる間に美雪も帰ってきた。


「あの子テーブルに二千円も置いて帰ったわよ」

「俺はいいと言ったんだが、今度来たらサービスしてやってくれ」

「そうするわ」


 二十二時になった、報道番組が始まった。夕方の俺の起こした事件が取り上げられている、組同士の抗争となっていた、警察と駆けつけた寒川組が鉢合わせたので銃刀法違反で数名が逮捕されていた、寒川組の家宅捜査も入るらしい。


「あなたがやったのでしょ?」

「ああ、俺がやったんだ。よくわかったな」

「あなたならやりかねないもの」


 驚きもせずそう言った


「寒川組も俺が完全に潰す」

「人殺しは駄目よ、懲りてるでしょ?」

「ああ、だが俺は人殺しはした事はない、殺しはしないただ徹底的に潰すだけだ」

「昔半殺しにしたでしょ? あなたが死ぬとは思えないけど、一応気を付けてね」

「上手い事やるさ」


 腹いせに暴れたせいか眠くなっていた。


「寝るのならベッドで寝てね」


 感がいいと言うのか察しがいいのか苦笑いをして寝間着に着替える


「こんな俺のどこがいいんだ?」

「唐突ね、あなたの全てに惹かれたのよ、そのままでいてね」

「俺もだ」


 おやすみと言って先にベッドに入った。


 翌日ファックスが二枚来ていた、今は先客がいると思ったが、一枚目は水谷幸之助からで、二枚目は祐介の義母にあたる真知子からだった。差し出し先は別の番号からだ。


 水谷幸之助は病院からのファックスだ、真知子は恐らく自宅からだろう、こちらから探りを入れる手間が省ける、嬉しい誤算だ。


 幸之助の病室の電話番号が書いてあったので、こちらから掛けてみた。


 幸之助はかなり咳き込んでいたが喋り方はしっかりとしていた。用件は? と聞くと病室に来てからと言う事だったので秘書や付き添いがいない事を条件に出した、わかったと言うので昼前に行くとだけ伝えた。真知子にも電話してみるが用件をなかなか言わない、十四時に事務所に来るように伝えた。


 祐介に電話し今の事を伝えると驚きを隠せずにいた。


「何で二人共神崎さんのところに、偶然でしょうか? 俺の事は言わないで下さい」

「何故かはわからんが、前にも言ったろ、守秘義務があるって。それに俺のクライアントは祐介お前だ、ただ二人の話を聞くだけだ、いいな」

「わかりました」


 早速服を着替え幸之助の病院に向かう、直接病室に行く。護衛はいない。


 ノックをすると返事の代わりに咳が聞こえたので勝手に入る。


「神崎です」


 と言って近くの椅子に腰を下ろす。


「体がこんなんでな、呼び出して悪かった」「咽頭ガンですか?」

「よくわかったのう、手術が出来んので投薬で抑えてはいるがなかなかよくならん」

「水谷グループの会長、息子は祐介、後妻に真知子と連れ子の京子、そんな金持ちがどうして俺に?」

「知っておったのか、うちの興信所は役に立たなかった、君なら多少荒っぽい事もやるとうちの顧問弁護士が言うとったからな」

「天野ですか」

「何でも知っておるようじゃの」

「天野は俺の友人です」

「天野からさっきの事は聞いたのかね?」

「いえ、自分で調べました」

「二時間でそこまで調べるとは荒っぽいだけじゃないようだな」

「で、用件は?」

「息子の祐介のボディガードを頼みたい、わしが死んだら全部あいつに託すつもりじゃ」「つまり、後妻の真知子夫人や京子では駄目だと?」

「鋭いな、真知子は金にしか興味がないし京子も今は同じじゃ、京子は違うと思っておったんじゃがのう」

「祐介はまだ二十二歳ですよ」

「あいつは若いが素質はある、サポートは秘書に任せれば大丈夫だ、秘書の山口は全て把握しておる」

「その山口が裏切ればどうなります」

「山口が裏切る事は絶対にあり得ん、天野も付いている」

「なるほど、ではなぜボディガードなんですか? 狙われている確証は?」

「真知子だ、あいつは祐介が邪魔で仕方ない様子だ、離婚届にも判を押さんしわしの唯一の誤算じゃった。それに……」

「それに寒川組が絡んでいると言いたいんですね」

「何故それを? もしや真知子から?」

「いえ、違います。守秘義務があるので細かくは言えませんが、祐介は安全です、ボディガードももう付いています」

「あんたか?」

「さあ、どうでしょう。これ以上は話せませんが祐介は無事に生き延びるでしょう、俺からはここまでが限度ですので失礼しますよ」


 幸之助は無言のまま下を向いている、病室を後にした。


十四時に真知子は京子を連れて事務所に現れた、二人共リンチを受けたのか元の顔がわからないほど顔面が腫れ上がり体も傷だらけだった。二人から名刺を差し出された。


「ボロボロですね、用件を聞きましょうか? 心配しなくても相談内容は他人に話せない規則になっています」

「荒っぽい事が出来ると聞いて来ました、ある人物から相続権の放棄をさせて欲しいのです、殺しても構いません」

「物騒な話だ、祐介を殺してどうするつもりですか?」


 祐介の名前が出て二人共驚いている。


「なぜ貴方みたいな探偵が祐介の事を知っているのかしら」


 怒っている。


「なに、二時間も調べればわかる事ですよ、幸之助氏も同じ考えですか?」


 やや沈黙があり、


「そうです、主人も同じ考えです」

「嘘はいけませんね、あなたは幸之助さんに離婚されそうな身でありながら、水谷グループを乗っ取ろうとしている、寒川組とつるんでいるらしいじゃないですか」

「な、なんで貴方がそこまで知っているのよ探偵不贅に言われたくないわ」

「本性が出ましたね、俺の出まかせから」

「誘導尋問って奴?」

「お母さんもう止めて、目を覚まして」

「あんたは黙って私に付いてきなさい」

「街中の噂ですよ、あなたが水谷グループを継いだところで何が出来るんです? ヤクザも絡んでいるとわかれば大スクープですよ、その顔もリンチされた証拠でしょう、自分で自分の首を締めているも同然です、幸之助さんが亡くなれば、そのヤクザがあなた方二人を殺してでも乗っ取るでしょう、祐介君と幸之助さんなら安泰でしょうが」

「あんたみたいなのに説教される筋合いは無いわ、京子帰るわよ」


 バタンと大袈裟にドアを閉めて帰った。


 家に帰ると美雪がいた


「今日は暇なのか?」

「ちょっと悪い予感がして」

「それは当たるかもな」


 俺は祐介に電話をする


「何かわかりました?」

「ああ、いろいろな。お前の親父さんからはお前のボディガードを依頼された、はぐらかして帰ってきたが、親父さんはお前に跡を継いでもらいたがってる、親父さんに聞きそびれたが後どれくらい持つんだ?」

「医者は治療さえ続ければ三年以上持つと言ってました、しかし二人共神崎さんに依頼してくるとは、さっきも言いましたが偶然でしょうか?」

「いや、顧問弁護士が俺の友人なんだ、その伝手で依頼してきたようだ、後お前の義母は親父さんからの離婚届に判を押さないらしいな」

そんな事があったんですか」

「問題はお前の義母だ、俺に相続権を破棄させろとか殺してもかまわないと言っていた、俺が図星を指摘すると本性剥き出しで怒って帰っていった。それと義母も京子もリンチされたみたいで顔がわからないほど腫れて体中傷だらけだったぞ」

「やはりあの人にとって俺が邪魔なようですね、神崎さんにまで殺していいなんて」

「祐介、ずいぶんと冷静に理解出来るようになってきたな」

「まあ、神崎さんが寒川の息子達をあそこまでしたので、なんか落ち着いて物事が判断出来るようになったんだと思います。父の意志も尊重するように考えてみます」

「それがいい、もう暫くそこを動くなよ、俺も寒川組が落ち着くまで待機する」

「わかりました、ありがとうございます」

「何かあればすぐに電話を掛けてくれ」


 電話を切った、美雪が後ろから抱きつく。


「悪い予感は当たってたみたいね」

「ああ、俺じゃなく祐介にとってはな」

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