第12話
美雪は医者に山口に食事の話を聞いたらしく、張り切っていた
「何を食べても平気なのか?」
「何でも食べていいらしいわ」
「まあ、病気じゃないからな」
「今日は俺も付いていくレストランに十五時でいいか?」
「ええ、ちょうどいい時間帯だわ」
「じゃあ俺はそれまで仕事をしてくるよ」
「わかったわ」
事務所に着くと涼子が心配そうな声で
「山口さん、意識が戻られたみたいですね」
「何とか助かったよ」
「所長のお陰です、私からもお礼を言っておきます」
俺はデスクに座り非通知で新井に掛ける
「誰だ?」
「寒川達をボコボコにした者だ」
「お前か、全くヤクザのリンチよりもやり方が酷い、誰に雇われている?」
「個人的な恨みを晴らしただけだ」
「で、用件は?」
「水谷グループの山口をやったのはお前の雇ったプロの殺し屋か?」
「そんなのは知らねぇ」
「本当の事を話さないとお前も寒川みたいになるぞ」
「本当に知らない、俺も左腕を切り落とされた」
「坊主頭の奴だったか?」
「詳しいな、その通りだ。探しているが見つからねぇこの手で殺してやる」
「それは俺がやる、気分次第でお前も潰す」
急に怯えた声に変わった。
「待て俺に恨みは無いだろう? 寒川みたいにはなりたくない。金ならやるから見逃してくれ」
「真知子を利用した罰だ」
「あれは仕方なかったんだ、頼む俺にはあんな事しないでくれ」
「寒川の息子達を殺したのもお前の指示だ」
「こっちの世界のケジメだったんだ」
「何故親父の寒川は殺さないんだ?」
「事をこれ以上大きくしたくないからだ、もう寒川にも真知子や水谷グループにも関わらない、だから俺には何もしないでくれ」
「また掛ける」
電話を切り、山崎にも掛けたが同じ反応だったが、坊主頭と言った時におどおどし始めた。
「雇ったのはお前だな」
声を震わせながら答える。
「確かに雇った、新井に復讐したかった、あんな寒川の様な状態でも俺の息子だ、しかし殺した。仕返しに左腕を切り落とさせた。契約は一回きりで五百万、もうこの街にはいないはずだが、真知子と山口まで襲ったとなるとまだ潜伏しているのかもしれない」
「俺が片を付ける、その次は新井とお前だ」
「待ってくれ俺は何もしちゃいない、全て寒川と新井の指示だ、俺だけは見逃してくれ、寒川の様になりたくはない、お願いだ」
「また掛ける」
電話を切り、新井にかけ直す。
「俺だ」
「またあんたか、許してくれる気になってくれたのか?」
「いいや、一つ情報が入ったから教えてやろうと思ってな」
「何なんだ?」
「お前の左腕を切らせたのは山崎が雇ったプロの殺し屋だ、山崎の息子を殺した恨みだとよ、それだけだ」
「山崎の奴が裏切りやがったのか、潰してやる」
「その後俺がお前を潰す」
「さっきも言ったが金ならやる、俺を助けてくれ」
「金に興味はない、また掛けるそれまでに山崎を片付けておけ」
電話を切ると疲れが出てきた。
近い内に山崎は新井に殺られるだろう。手間が省けて助かる、山崎が殺られるまでのんびりしておこう。
「所長、話が筒抜けでしたが寒川組みを潰した話本当だったんですね、殺しもやるのですか?
「いいや、これは俺個人の恨みだったんだ、それと俺は人殺しはした事がないし、これからもするつもりは無い」
「そうですか、安心しました」
「怖いかい?」
「さっきは少し怖かったですが、今は平気です。水谷グループの傘下の人が殺しなんてするはずないですもの」
「事務員に逃げられるかと思ったよ」
「心配しないで下さい、山口さんからの紹介ですもの」
「話は変わるが、今日から暫く十四時以降は留守にする、頼みますよ」
「わかりました」
「ニュース速報を見るのにテレビかラジオが欲しいな」
「そうですね、静かすぎます」
「じゃあちょっと見てくる」
「はい」
いつもの電気屋に行き安いテレビとラジオを買った。バッジを見せると何割か値引きをしてくれた。金庫も近くの店で買った。
早速持って帰り取り付けた、テレビもラジオも問題ない。
金庫も視覚に入らないとこに備え付ける、番号と鍵の二十ロックの物だ、涼子にも合鍵を渡し番号も教える。
「とりあえず十万入れておく、何かの時は使ってくれ」
「わかりました」
今日は時間が経つのが早い。
「そろそろ出掛けます」
「お気をつけて」
レストランに着いたのは十三時半だった。
辛口のカレーを食べコーヒーを飲んでくつろいでいると、美雪が。
「今日は暇なの?」
「これでも一応仕事はこなした」
「順調そうね」
「新井と山崎に亀裂を入れさせて、潰し合う様に仕向けた、近い内にどちらかが死ぬだろうな」
「あなたらしいやり方ね」
「準備は順調か」
「早いけどもうほとんど出来てるわ
「じゃあ行こうか」
このところ病院に来るのが日課になっている、独特な雰囲気にもすっかり慣れた。
先に幸之助の部屋に入る。天野と京子もいるようだ。
「待っとったぞ、山口の病室で食べようじゃないか」
山口の病室と言っても隣の八百四号室だ。
ノックもせず幸之助は入る。それに続く。
「皆さんどうぞ」
山口は電動式のベッドを起こす。
「こんなのしか思いつきませんでした」
チキンの照り焼きとカルボナーラだった。チキンは半分に切って更に一口サイズにしてある。
「十分です会長一緒に召し上がりましょう」
「そうじゃな、病院食は不味くてのう」
二人が食べ始める幸之助はペースが早い、山口は脇腹が痛むのかゆっくり食べている。俺は今日の出来事を二人に話し始めた。
俺が話し終えると、食事も終わっていた。
「ああ、美味かったわい」
「確かに美味しいですね」
「ところでさっきの話だが、本当かね?」
「ええ、ここ二日か三日でどちらかが死ぬでしょう。俺の仕事が一つ減ります」
「では、残った方を神崎さんが潰すのでしょうか?」
「そう言う事になりますね」
「じゃが、坊主頭のプロの殺し屋はどうするつもりじゃ、いくらあんたが強くても相手はプロじゃ殺されるかも知れんぞ」
「それなんですが、山口さん狙われた時どんな感じでしたか?」
「そうですね、黒いオーラに包まれた感覚でした」
「それが殺気と言う奴です、こう言う世界にはプロと言ってもピンからキリまでいます、大物ほど殺気と言うのは消して近づく物なんです、山口さんにもわかるほど殺気が出ているのはプロの中でも落ちこぼれです、ヤクザに毛が生えたくらいのしょぼい相手でしょうね、その程度なら俺でも十分相手出来るでしょう」
「そんなもんかね、じゃが油断はするんじゃないぞ」
「坊主頭はどうやら刃物のプロの様です、拳銃だったら難しいですが刃物なら何とかなりますよ、心配しないで下さい」
京子が初めて口を開いた
「ナイフ使いの人って西川って人じゃないでしょうか?
「京子、知ってるのか?」
「いえ、会った事はないですし話した事も無いですが、山崎がある時にナイフを使う西川って言うプロを呼ぶ、とか側近の人と話してました。それ以上は何も知りません」
「名前がわかっただけでも上出来だ」
「じゃあ依頼を増やそうかの、西川をこの街から追い出し、神崎君は死なない事じゃ」
「引き受けましょう」
次の日も新井組に変化はなかった。
昨日と同じく昼過ぎにレストランに行き、昼食を食べ、美雪の用意が終わるまで雑誌を読んで過ごす。用意出来ると病室に向かう。
今日はハンバーグとオムライスだった。二人が無言で食べ始める。食べ終えると美雪に料理の感想を言っている。
「毎日すまんのうどれも最高じゃ」
「私も傷の治りが早いと医者に言われましたよ、美雪さんの料理のお陰かもしれません」
「ありがとうございます、山口さんが歩ける様になるまで毎日持って来ますわ」
「それはありがたい、お礼はいずれさせてもらいます」
「お礼なんて結構ですわ、私が自分から始めた事ですもの」
「ところで神崎君内部抗争は始まっておらんようじゃな」
「今日か、明日くらいでしょう。のんびり待ちましょう」
ちょうど京子が入って来た。
「山口さん、この書類のこの部分はこれでいいですか?」
「お嬢様上出来です、文句の付けようもないです」
「山口さん、お嬢様は止めて欲しいとお願いしたでしょ? 名前で呼んで下さい」
「これは失礼、長年の癖が抜けなくて。京子さんでいいですか?」
「はい、それでお願いします」
「それと神崎さんに報告があります」
「何だね?」
「西川らしい人物が港付近でよく見かけるそうです、港の管理も水谷グループの管轄なので、そこで噂を聞きました」
「やはり港周辺か、助かった情報をありがとう」
「やはりと言うのは何でじゃ?」
「真知子が殺されたのも、山口さんが切られたのも港の入口周辺です。寒川組や新井組の武器庫や覚せい剤も港での事件です。近くに隠れ家があるのかもしれないです」
「なるほどのう、でどうする気じゃ?」
「今は待ちます、動くなと俺の勘が言ってるんでね」
「わかった任せよう」
「京子さん、危ないので港の管理の時は昼間の明るい間に行って下さい。あなたにはこれから先もありますから」
「わかりました、山口さん。それと美雪さん今度レストランへ食事に行ってもいいでしょうか? 何度かお会いしてますが話すのは初めてですよね?」
「いつもの来て頂戴サービスするわ。そう言えば初めての会話ですですわ」
「私は料理が苦手なんです、いつもお父様や山口さんが美味いと言っているので気になってたんです。良かったら暇な時にでも料理の基本も教えて下さい」
「いいわよ、最初は下手でもいいの作る楽しみを覚えたら上手になるわよ」
女同士の会話だ二人が上手くやってくれれば問題はない。
「神崎君、本来なら依頼は終了しているが、祐介と自由に会ってもいいかね?」
俺は少し考え。
「明日以降ならいいでしょう、祐介が狙われないように手配しておきましょう」
「そんな事が出来るのかね?」
「今の俺には電話一本で出来ますよ」
「では、頼んだ。祐介にもいろいろ叩き込んでおかないといけないからのう。しかし電話一本で片が付くとはやはり優秀だ、私と祐介が見込んだ男なだけはある、私が死んだ後もサポートは任せたぞ」
「わかってますよ、それより親父さん三日前くらいから咳き込まなくなりましたね」
「気付いておったか、ガンがまた小さくなって消えかかっておるんんじゃ、一流の医者をスカウトしたかいがある」
「私も今神崎さんに聞かされて気付きましたよ、坊っちゃんが一人前になるまでの時間が伸びましたね」
「あいつはもう一人前じゃ、ただ若いから舐められないように、自分をしっかりと持つ覚悟を決めてもらわねばならん」
「親父さん、祐介なら大丈夫ですよ出会った時よりかなり成長した」
「神崎君の背中を見て大人になったのかもしれん」
「探偵なんて社会のドブ浚いの様な仕事ですよ、俺は誇りを持ってやってますが、そんな男の背中を見ても大した事ないですよ。まあこれは祐介にも言った事ですがね」
「どんな仕事でも金を貰ってやっている以上立派な仕事だ、殺し屋以外はな」
と言い笑っている。女性二人の話も終わったようだ。
「今日は失礼しますよ、さっき言ってた通り電話をしなくちゃいけない」
「そうじゃったな、美雪さんごちそうさま」
「また来ますわ」
と言いレストランへ戻った。
「どうだった? 京子とは上手くやっていけそうか?」
「ええ、もう電話もメールアドレスも交換したわ。初めと違って根はいい子みたいね」
「もうメールアドレスまで交換したのか、そうだなあいつは真知子とは正反対の性格だ、仲良くしてやってくれ」
「もちろんよ」
「俺は一つ仕事が残ってるから片付けてから帰るよ」
レストランを出て事務所に戻る、涼子は作業をしながらテレビを見ていた。
「おかえりなさい」
「お疲れさん」
「またちょっとヤクザと連絡するから静かにしておいてくれ、正体はまだ明かしたくないからな」
「わかりました」
通話履歴から新井に電話を掛ける。
「俺だ、覚えているか?」
「ああ、その声は怖くて忘れられない」
「一つ言い忘れたが真知子が死んだ今、水谷祐介を襲っても一文にもならんぞ、逆にお前のところが潰されるだけだ」
「知っている、病院で祐介を張ってた下っ端も引き上げさせた、俺達があの水谷グループを相手に出来ないとわかっているからな、それにあんたの逆鱗に触れて寒川みたいになりたくないからな、忠告は素直に受け取った、組員全員にすぐ伝えておく」
「賢明な判断だ、山崎の処分は決めたか?」
「明日あんたがやったようなやり方でケリを付ける。あんたには悪いがあんたがやった事にさせてもらう。もちろん山崎派の連中は全員だ」
「俺は構わんよ、好きな様に派手にやってくれ、そうすれば俺はあんたを狙うのを止めるかもしれない」
「まだ俺を寒川みたいにする気なのか、助けてくれ」
「俺の気分次第だ、切るぞ」
続けて祐介に連絡する。
「祐介、レストランで待っている、もう堂々と街を歩いても平気だ」
「何かやらかしたんですね、わかりました」
電話を切ると涼子が。
「坊っちゃんが狙われてたんですね」
「ああ、聞いての通りだ、今から祐介に報告に行く。だが事件はまだ完結していない」
上着を着て、行ってくると手を挙げた。
レストランに着くと祐介はパフェを食べ始めていた。
「珍しいな、俺も注文しよう」
スタッフを呼び、同じものをと言った。
美雪が出てきて横に座る。
「珍しいわね二人共パフェだなんて」
「今日は前祝いだ」
「聞いててもいいかしら」
「構わんよ」
美雪もパフェを持ってくる
「じゃあ、食べながら話そうじゃないか」
俺は今日の新井と山崎の事や病院での事をわかりやすく説明した。
「流石ですね、俺は自由の身って事ですね、どこへ出掛けてもいいのですね、依頼は完了したも同然ですね」
「そうだな、ただ坊主頭の男にだけは注意しろ。そいつを片付けてやっと依頼が完全に終わる」
「わかってます、が開放感でいっぱいです。明日から父と山口さんのお見舞いにやっと行けるようにまりました
パフェもなかなか美味いなと感心しながら聞いていた。
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