第11話
レストランへ行く、コーヒーを飲みながら祐介に連絡する。
「俺だ、レストランで待っている」
「わかりました」
十分程で祐介がやって来た。コーヒーを頼んでやる。
「二日ぶりくらいでしょうか?」
「そういやそうだな」
「何かやりました?」
「真知子の全財産四億円を奪ってきた、後は手持ちの二百万円だけだ」
「流石神崎さん、良くそんな事が出来ましたね」
「簡単な事だ、それより京子の事は聞いているな?」
「はい、出来れば養子にして、山口さんの後釜になる事ですよね」
「そうだ、お前と同じく英才教育のお陰で、山口さんが言うにはかなり優秀らしい」
「姉は物事の飲み込みが早いんです、本来の明るい姉に戻ってくれれば、いい仕事をするはずです」
「だろうな、もう大丈夫だろう、笑顔も戻ったし、親父さんに従順だ」
「しかし神崎さんもかなり大胆な手口で離婚させましたね、真知子さんは知っているのですか?」
「いや、まだだ言うタイミングが大事だからな」
「神崎さんに任せますよ」
「親父さんと同じ事を言うんだな。俺は一旦事務所へ戻る」
「俺は何か食べてから帰りますよ」
美雪と祐介に手を挙げ店を出て事務所へ帰った。
涼子は小説を読んでいた。
「おかえりなさい、やはり昼からは暇でしたわ」
文庫本を閉じて立ち上がり、コーヒーを運んでくれた。
「真知子さんから何度も連絡がありました」
「適当にあしらっといてくれ」
「わかりました」
俺の携帯が鳴る。真知子だ。
「何の用だ、俺は忙しいと言っただろう」
「さっき久しぶりに自宅に戻ったのよ、そしたら門が閉められてて、使用人に中には入れられません旦那様からの指示ですって言われたわ」
「何をしに戻ったんだ?」
「それは秘密よ」
「隠してる三冊、合計三億円を出そうとでもしたのかね」
驚いて声も出ないみたいだ。沈黙の後。
「どうして、それを知っているの? 何で私は入れないのにあなたが入れるのかしら?」
「それは言えんな」
「あなたが持っているの? 泥棒じゃない」
「俺じゃない、幸之助氏に返したよ」
「私が直接返してもらいに行くわ」
電話が切れた。
急いで幸之助に連絡を入れる。
「俺です、真知子がそっちに向かいました、何かあるといけないので俺が行くまで八階は開けないで下さい」
急いで上着をはおり。
「涼子さん先に帰っていて下さい」
車を飛ばした。レストランで祐介と美雪を拾った。
「面白い物を見せてやる」
と言い車に乗せる。
祐介は病院に行くのを怖がっていたが。
「俺が付いてる誰も襲って来ないだろう」
と説明してやった。駐車場に車を止め中に入ると。
目立ちにくい格好をした真知子が受け付けでどうして主人に会えないのよと息巻いている。俺は肩を叩いた。俺と祐介を見て驚いている。
「会わせてやる、付いて来い」
携帯で幸之助に連絡し、真知子と祐介と美雪を連れて病室に上がります、と言いエレベーターに乗り込む。
すんなりと八階でドアが開く、真知子は訳がわからないと言った顔をしている。
ノックをして入ると、京子が何かを書き終えたところだった。全員いる。完全に揃うのはこれで最後だ。
「親父さん、そろそろ全部話してもいいでしょう」
「君に任せようじゃないか」
「真知子、俺のクライアントはこの中にいる誰とは言わんが」
「あなた、ごめんなさい」
「今更じゃな、もう手遅れじゃ」
「じゃあ私の実印と通帳を返して」
「それも手遅れじゃ、印鑑は破棄して金は全部京子の物じゃ」
「京子、返しなさい。私のお金よ」
掴みかかろうとした真知子を蹴り飛ばす
「あなたは誰ですか、気安く私の名前を呼ばないで下さるかしら」
起き上がった真知子はぽかんとしている。
「あなたは私の娘よ、実の母の私がわからないの?」
怒鳴っている真知子に、さっき書いてたらしき紙を見せつける、絶縁状だ。追い打ちを掛けるように言い放つ。
「私は木下の姓を捨てて、正式に水谷京子になりましたの」
「養子縁組の書類も見せる。
「そんなの無効よ」
破り捨てると天野が
「残念ですがそれはコピーです、本物はこっちです」
とカバンから書類を取り出す、真知子が飛びかかろうとしたところをまた蹴り飛ばす。
三メートルは吹っ飛び壁にぶつかる。ゆっくり立ち上がると、フラフラしながら幸之助の首に手をかける。
「お前がわしを殺したら自動的に相続権や財産は祐介のものだ、それでもよければ殺しなさい」
もう真知子は本能で動いている右フックを打ち込むとぶっ倒れて白目を向いた、腹に蹴りを入れると意識を取り戻し肩で息をしている。
幸之助がとどめを刺す、相続権と離婚届けの二枚だ。
「そんなの無効よ」
「実印まで押しておる、法的に問題はない」
俺は京子を見た、顔を背けている。
幸之助が大きな声で言う。
「京子、しっかり見ておくんじゃ、欲に塗れた人間はこうなる事をな」
京子はやっとこちらを見た、何の感情も出ていない。祐介と山口はは平然としている。
「私の財産、私のお金、私の娘、全部全て私の物よ」
絶叫している。祐介に飛び掛かろうとした瞬間、俺のハイキックが顔面を捉える。吹き飛び壁にバウンドして倒れた。耳元で。
「寒川みたいにしてやろうか?」
と言うと
大人しくなり震えながら泣き始めた。
「あんな姿になるくらいなら死んだほうがマシだわ」
「親父さん用意してますか?」
幸之助は頷き分厚い封筒を差し出した。
俺は最後に言い放った。
「今度、水谷グループや新井組に関わったら寒川と同じ目に合わす、これは親父さんからの手切れ金だ、貰えるだけでもありがたいと思え、二度とその面みせるんじゃねえぞ。わかったらそれを持って他の街で静かに暮らせわかったか?」
黙って頷いている。封筒を持ちフラフラ部屋を出て行った。
暫く沈黙した後、俺は京子に話しかける。
「俺の十分の一の力だしっかり見たか?」
「はい、怖いのを通り越して固まってしまいましたが、欲を出すとあの人のようになると実感しました。寒川のあの姿も神崎さんがやったんですね。これからは水谷京子として正しい道を歩みます。」
幸之助が口を開く。
「神崎君、よくやってくれた。心から礼を言うぞ、それと祐介ともようやっと会えた、感謝するぞ」
「これが俺のやり方ってやつです」
「お父さんやっと会えましたね、姉さんもです」
「祐介、たった数ヶ月で成長したのう、神崎君のお陰じゃろう」
「祐介、私も心を入れ替えたわ
「お父さんと姉さん、あの人の事件は解決しましたが、まだ新井組が残ってます。それが落ち着いたらみんなでお祝いしましょう。それまでさっきみたいに神崎さんが助けてくれます。もう少し待っていて下さい」
黙っていた山口が口を開く。
「ヤクザより怖い体験をしました、坊っちゃんを頼みますよ」
それを美雪が答える。
「大丈夫です、この人が怒ればこんな程度では終わりません。徹底的にやる人です、さっきのは準備運動にもなりませんわ」
「俺が全て綺麗にします、汚れるのは俺の手だけでいい。祐介、感動の再会はここまでだ帰るぞ、長居は危険だ」
「そうですね、ではお父さんに姉さん、また事件が片付いたら会いましょう」
手を挙げ、病室を後にした。
病院で見張っている新井組に尾行されるか心配していたが、誰も尾行して来なかった。
祐介を送り届け、美雪とレストランに戻った。
「あなた、夕食は?」
「まだだ、腹が減った。何か食わせてくれ」
「動いたからお肉の方がいいわね」
「それだけじゃ足りない」
「わかったわ」
すぐにカルボナーラと分厚いステーキが出て来る。美雪は横に座りペペロンチーノを食べていた。俺の方が先に食べ終わった。
食後のコーヒーを飲んでいると天野がやってきた。
「さっき真知子が港の入口で死体で見つかった、刃物で脇腹を切られ死んでいたそうだ。所持金は五千円だけで会長が渡した金は無かったそうだ、カバンは空だったらしい」
「病院で祐介を張ってた新井組に消されたんだろう」
「かもしれないな」
だから俺達は尾行されなかったのかもしれない。
「みんな知っているのか? 祐介以外は知っている、京子は驚いていたものの別段顔色すら変えなかったよ、自業自得ねの一言で済ませたよ。会長も山口さんも眉一つ動かさなかった」
「そんなもんだろう、俺も別に驚いてはいない」
美雪も関心ないようだった。頭に浮かんだのはあの坊主頭の男だった。
次に狙われるとすれば祐介か俺だろう、タバコに火を付け祐介に電話をする。
「神崎さん、今テレビであの人が殺されたのがニュースで流れました」
「ああ、お前も落ち着いてるな。病院で顔を見られたのなら次はお前か俺が狙われるだろう、暫く家からあまり出歩くなよ」
「わかりました」
電話を終えると、天野が。
「慌てているのは俺だけか」
「そうだ、祐介も普段通りだった」
コーヒーだけ飲むと天野は帰って行った。
「俺たちも帰るか」
「そうしましょ」
家に帰ると俺はデジカメを取り出し、美雪に見せる。
「殺ったのは恐らくこの男だ、プロの殺し屋だろう、お前は大丈夫だと思うが見かけたら逃げろ」
「わかったわ」
それから暫くはなんて事ない毎日を送った。こちらから動くのを止めただけだ、動くなら新井組の方から動くだろう。
祐介は相変わらずしょっちゅうレストランに来て食事をしている、変わったのは帽子と伊達メガネを掛け変装している事くらいだ。それだけでも十分効果はあるみたいだ。幸之助は離婚届けを出していたので十分ほど警察に真知子がどんな様子だったか聞かれただけだ。
京子は気分がさっぱりした様子で日に日に明るくなっていった。山口は京子の成長っぷりに感心している、もう何時でも交代出来ると喜んでいる。
幸之助も日を追うごとに元気になりつつあった。
束の間の平和の後、小さな事件が起きた、新井が左腕を切り落とされた、また内部抗争が起きているのかもしれない。
週刊誌には新井と山崎の対立と出ていた、このまま潰し合って共倒れしてくれれば事件解決だ。
数日間、朝と夜には祐介と連絡を取り、午前中は幸之助を見舞う、昼はレストランと言う生活が続いた。
ある夜寝ていると、珍しく幸之助から電話が鳴った。
電話を取ると開口一番。
「神崎君助けてくれ、山口が襲われた。港の側じゃ、今電話が入って聞いたんじゃが、何者かに襲われたみたいなんじゃ。電話は途中で応答がなくなってしまった、山口が死んでしまう」
俺は電話を切り、美雪に山口が襲われた、出掛けてくると言って、慌てて上着を来て車を港まで信号無視で突っ走った。港近くに誰かが倒れている、山口だ。側に駆けつけ名前を呼ぶ。
「山口さん、しっかりして下さい俺ですわかりますか?」
カバンは側に落ちている。体の傷を確かめる脇腹を切られて出血量も多い。
山口はまだ生きている心臓は動いている、頬を叩く、何度も呼びかける、ようやく意識が戻る。弱々しい声で。
「神崎さん、私はもう駄目です。会長をよろしくおねがいします。襲って来たのは五分刈りの男だった。このカバンをお嬢様に」
意識を失う、急いで救急車を呼ぶがなかなか来ない。俺は山口を俺の車の後部座席に寝かせ、幸之助の病院に車を飛ばした。病院に着くと大声で病院内に向かって叫ぶ。
「誰か助けてくれ」
すぐに救急病棟から応答があった。
バッジを見せ。
「山口がやられた、こっちだ」
病院のスタッフも駆けつける。ストレッチャーで俺の車から山口を手術室へ搬送されて行く。幸之助に連絡を入れる。
「山口さんはかろうじて生きている、親父さんの病院に今着いた」
「わかった降りるから待ってくれ」
待ってる間に美雪に連絡し、事を伝えると祐介にも連絡を入れる。幸之助は床滴る血を見て愕然としている、天野も京子と一緒に慌てて走りながら入って来た。美雪も駆けつける祐介はタクシーでやって来た。外から病院内の血を見て、助からないとみんな思っただろう、手術室から医者が一人出てきた。
「瀕死の状態です、会長、最善を尽くしますが覚悟はしておいて下さい」
「頼むから命だけは助けてくれ、わしの相棒じゃ」
「わかってますが、傷が深いし意識もありません」
また戻って行く。誰も何も言わない刻々と時間は過ぎて行く。俺は山口のカバンを思い出した。車から取り出し京子に見せる。
「山口さんのカバンだ、京子に託すと山口さんは最後に言っていた、中身を確認してくれ何か無くなっていないか?」
京子は一つずつ確認して行く。
「大丈夫です何も取られていません」
「そうか、カバンはお前が預かっておいてくれ」
京子が頷く。
手術室の前でみんな祈るように指を組み長椅子に座っている。
医者がまた出て来る。
輸血用の血が足りません、B型の輸血用パックはこの街の病院に手配しましたが、到着が遅れています、この中で同じ血液型の方はいらっしゃいますか?」
俺と美雪と京子が手を挙げる。
「こちらの部屋にお願いします」
「俺のは限界まで血を使ってくれ」
「私のも」
美雪も京子もそう言う。簡単に血は採取された。
「ありがとうございます、早速使います」
起き上がろうとするが貧血が酷い、看護師からは暫く寝ておくようにと言われたが、立ち上がり部屋を出て手術室前に戻った。
輸血用パックも届いたみたいだ。美雪と京子もふらつきながら戻って来る。
四時間が過ぎ、医者が出てきた。
皆さん手術は無事に終わりました、奇跡的に助かりました。傷は内臓にまで達しておりましたが、皆さんの血が役立ちました。到着が後二分遅ければ助からなかったでしょう」
皆、安堵のため息をつく。幸之助は泣きそうな顔で俺の手を握り。
「君のお陰じゃ、君の判断で車で運んでくれたから助かった、救急車を待っていれば山口は助からなかったじゃろう。美雪さんに京子も血を分けてくれて助かった礼を言う」
「ところで親父さん、山口さんの家族は?」
「奥さんは十年も前に亡くなっておる、子供はおらん」
「そうでしたか」
山口の意識は二日後に戻った。
「私は生きてるんですね」
俺と幸之助が交互に話す。
「そうでしたか、神崎さんは私の命の恩人ですね。美雪さんもお嬢様もありがとうございます、会長ご心配をおかけしました」
医者が入ってくる。
「回復力も早いですし、かなり鋭利な刃物で切られていたので、一ヶ月もあれば歩けるようになるでしょう」
と言い出て行った。
「治るまでお嬢様に任せます。お嬢様大丈夫ですね?」
「まだ一人でするには不安がありますが、頑張ります」
「お嬢様なら大丈夫です、困った事があれば連絡を下さい。坊っちゃんも天野さんもありがとうございます」
「美雪さん、会長に食事を持って来たついでに私にも精の付くものをお願いしてもいいですか?」
「勿論です、言われなくてもそうしようと考えていました」
「俺は坊主頭に仕返ししておきましょう」
「神崎君頼むぞ。私と山口からの依頼じゃ」
「引き受けました」
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