親子喧嘩は誰も食わぬ
そんな領地であるため、公爵も見てみたいと言い出した。
「領都くらいなら……」
マイヤとダニエルは視察を許可しようとしたが、即座にヴァルッテリが反対した。
「父上、婚約披露の夜会が三日後ですよ。視察なんてできやしませんよ」
「衣装もないお嬢さんに恥をかかせると?」
「陛下肝いりなのに遅らせるのも難しいと言ったのはあんただろ!」
「仲良きことは美しき事かな、でしたっけ」
延々と口論をしている公爵親子を尻目に、マイヤは薬草茶を飲みながら呟いた。
それで済ませるマイヤも凄い、というのが帝国側の言い分だが、男爵領に住まいを構える者には「見覚えのある風景」なのだ。
「……風景って、光景ではなく?」
「アハト様の言い分もごもっともですが、当家はよく旦那様が失言なさって、それを戒める執事が似たようなことをやっておりますから」
「なるほど」
レカの説明もどうなのだと思わなくもないが、先ほど一度見せているため、マイヤたちもスルーした。
約一名、納得できない者がいたが、それもスルーされていた。
「どうせですから、一度オヤヤルヴィ公爵領へ持っていく薬のガイドラインとどのあたりまでの情報にするか、話し合いましょうか」
ゾルターンの一言で、ダニエル、マイヤ、ヘイノは顔を突き合わせた。
「……このあたりまででしょうね」
「まずは。一度に持っていっても、把握しきれぬでしょうしのぅ」
「父が最初に取った政策あたりか……。早いうちに晩年まで持っていければいいんだが」
結局、一便目は先代男爵が最初に軌道に乗せたという政策までと相成った。
ダニエルから、公爵領ですらそのあたりまで政策が進んでいないというのがもたらされたのだ。
「意外でしたわ」
「仕方ない。父たちがいなかったら、当領地はもっとひどかったはずだからね」
「それはそうですけど」
のほほんと話す男爵親子は、未だ喧嘩のおさまらぬ公爵親子に呆れたまなざしを向けていた。
専属のお針子やら、調合師やら解体師やらがぞろぞろとやって来たにも関わらず、低俗な喧嘩は止みそうになかった。
「どうしましょう?」
「部屋が濡れていいのなら、止めれますが」
アハトの言葉に、マイヤたちは微笑んで許可した。
ザパーン、という音と共に二人の上にだけ水が流れた。
「頭冷えましたか? ご両人。男爵家専属の方々がいらしたのでそろそろやめてください」
「もっと早く止めて欲しかったんだけど」
「年甲斐もなく喧嘩している親子をどうやって止めろと? 公爵様もヴァルに魔法封じ使いながら口論している状況でどうしろと」
水で頭を冷やすのは最後の手段といったところか。アベスカ男爵家ではゾルターンの怒りが収まれば終わるのだが、オヤヤルヴィ公爵家は違うらしい。
ところ変われば、などと思っていたのだが、アベスカ男爵家の内情も知る専属たちは「どっちもどっちだ」と思っていることなどマイヤは知らない。
「あの阿呆が国王となると、閣下への嫌がらせも兼ねて間違いなく夜会はおこなわせるでしょうな」
ヘイノの言葉に、帝国側の面々が微妙な顔をした。
「阿呆って……」
「阿呆なうえに傀儡の国王でしかないでしょうの。本来ならば、国王に就いていたのは、閣下のはずですしの。
あっさりと帝国のとんでもないことを暴露され、オヤヤルヴィ公爵親子が固まった。
「あのあほんだらは、変わりないようで何よりです。古来より行われていた白亜の髪同士を結び付けるという馬鹿げた偉業に隠して、オヤヤルヴィ家の力をそぎたかったのでしょうが、うまくはいきませんの」
「ヘイノ殿、あなたはどこまで知っている?」
「どこまでといわれましても。老いぼれは帝国在住当時の噂話と、マルコから聞いた話をまとめただけですがの」
それだけ民衆の噂とは洒落にならんものです。そう言うヘイノに、公爵が呆れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます