マイヤと店主

 そんなことは露知らずマイヤ達は、まず公爵家のお仕着せを着て屋敷を出、そのあと古着を購入してまた着替えた。その間に情報収集も忘れない。公爵家のお仕着せを着た侍女が三人も一緒にいると目立つらしい。

 それが分かってからは、ガイアに情報収集をしてもらい、ベレッカとマイヤは大人しくしていた。

「わたくし一人でも大丈夫ですのに」

「なりません。何しでかすか分かりませんし」

 ちなみに、マイヤの髪は布で隠されている。白亜色の髪というのが珍しいと分かったからだ。


 大人しくすることしばし。ガイアが服をもってやって来た。

「助かりますわ」

「グラーマル王国の馬鹿な密偵がおりましたので、ありがたく服をちょうだいして参りました」

「あら、都合よくいたのですね」

 誰が密偵なのかも、マイヤとガイアは見ればわかる。というか、隠密スキルの恩恵をまともに受けていないはずのベレッカですら、分かる密偵がいるという時点でどうなのだ、グラーマル王国。囮なのかもしれないが。


 少し動けば、ある程度の情報というものが手に入る。

 その中で分かったのは、マイヤの輿入れを誰も歓迎していないということ。マイヤの母親が人質のように連れていかれたのに、病気になったから追い出されたと思われていること。そして、先の戦でこちらにもグラーマル王国から捕らえられた女性が花を売る場所があるということ。それくらいだった。

「どちらもやることがえげつないですわね」

「元がグラーマル王国でしでかした分、どうしようもないですね」

「ですが、平民にまでそこまでするというのはどうなのでしょうね。しかもその女性が産んだ子供は差別の対象とは……。呆れてものも言えませんわ」

 どちらの国でも同じ事だが、ベレッカの言葉に対してマイヤはそう答えた。

「旦那様のことが悪し様に言われているのが気に入りません」

 きっぱりとガイアが言う。実はガイアもマイヤと同じ「混血」である。母親とともにアベスカ男爵領に流れ着き、職を得て密偵になったのだ。

「わたくしもお父様も気にしませんわ。領地にいるが分かってくれていることですもの」

 ダニエルのことだ。「あ、そう。仕方ないね。最後までリーディアに信じて貰えなかったし」と言いそうである。

「さて、食事にしましょう」

 グラーマル王国の金を少しばかり持ってきている。それを両替すればローゼンダール帝国でも使える。


 行った先は、この血でも差別されるという「混血」が経営している食堂だった。


「わりぃが、常連しか相手にしねぇんだ」

 どう見ても三十近い男がさっさと帰れと言わんばかりの態度で出迎えた。

「ふふふ。知ってて来たんです」

 少しばかり街に合わせた口調に変える。

「どこのお嬢さんだか知らんが、ここは一番治安が悪いんだ」

「知っています。私はグラーマル王国から来たんですから」

「帰れ」

 すぐさま不機嫌になった。マイヤよりも年上ということは、産まれはグラーマル王国で間違いないはずだ。

「この髪色を見ても同じことを言います?」

 はらりとマイヤは布を取った。


「わたくしは、グラーマル王国、アベスカ男爵の娘、マイヤと申します。母は……ご存じの通りこの国出身ですわ」

 がたん、常連客までもが驚いていた。


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