店にいる人間にしてもらうこと

「グラーマルにいた頃からアベスカ男爵領の話は聞いてたんだけどよ」

 ここの店主らしき男が頭を下げながら言う。

 それもそのはず。花を売る人ほど、アベスカ男爵領の世話になる。性病に関する薬はアベスカ男爵領でしか売っていないからだ。このあたりも祖父の政策が生きている。

「ここにいる奴らは、アベスカ男爵領に行く金がなくて、ローゼンダール帝国なら何とかなると思ってきた奴らだ。……結局は何も変わらなかったけどな」

 店主が店を開けたのは、母親が大店の娘だったからだという。手切れ金代わりだ。だったら、もの持ち込みで料理を作ればいい。そこから出来上がった店だという。


 グラーマル王国伝統の煮込み料理を、キッチンにいた男が持って来た。

「初めて食べますわ」

「やっぱり庶民の料理か」

 料理人が軽蔑したような声色で言った。

「いいえ。アベスカ男爵領ではこれを食しませんの。二代前に持ち直すまで、国一貧しい領地でしたもの。食べて薬草と年老いて死んだ家畜をじっくり煮込んだものでしたし」

 今でもよく食される。理由は、国一税収が高いからだ。アベスカ男爵領に限り、収入の約八割が国へ税収として持っていかれる。薬草や、領地特産の薬を売った金、ダニエルの収入で何とか持っているようなものである。

「うっわぁ」

 さすがにその倍にいた客たちがドン引きしていた。

「ですから、使用人は必要最低限しかおりませんわ。お給金も払わずに雇うなんて出来ないでしょう?」

「……グラーマル王国の貴族で初めてまともな人見た!!」

 失礼な。雇用を生み出すというのも大変なのだ。色々と対策を練り、雇用を生み出しているのが実情だったりする。


「あ、そうそう。この中に調合スキルを持った方はいらして?」

 誰一人手をあげない。

「まずもって、誰一人鑑定スキル持ってねぇんだわ。で、だいぶ前に有用なスキル持ってるやつらは徴集されちまったよ。そいつらは俺らを見下して近寄ろうとしねぇ」

「あらまぁ」

 この中でまとめ役となっている店主の言葉に、マイヤは呆れた。

「わたくしは採取スキルがあるので、採取してきた薬草を使って薬を作っていただこうかと思っていただけですわ。なければないで、数名に覚えていただきます」

「なっ!?」

「スキル保持者よりも、レベルの上りは遅いですが、使えます。出来れば料理人の方と、手先が器用な方で。教師はベレッカがいたします」

 ベレッカは恐ろしいほどに他者の得意分野を見つける。だからといって鑑定スキルがあるわけでもなく、本当に「勘」なのだそうだ。

そんなベレッカが選んだのは、店主と料理人の二人だった。

「ちょとまて! 俺らはスキル……」

「スキルなどあればいい、それくらいですわよ」

 スキルは産まれながらに持っている場合と、付与されることで持つ場合の二種類でしか保持できないとされている。

それを覆したのはアベスカ男爵領のとある男だ。


 もう一つの方法、特に門外不出というわけでもないが、好んでやりたいと思う輩は少ないだろう。

「スキル保持者の倍以上頑張れば、疑似スキルを取得できますわ。それを覚えていただきます」

「ば……倍以上」

 店主の顔から血の気が引いていた。

 疑似スキルをきちんとしたスキルにすることも可能だが、そちらはもっと面倒くさい。だから、今はあえて言わない。

「やっていただくしかないんですの。出来た薬はわたくしが責任もって買い取りますわ」

 作ってもらうのは、性病に効く薬だ。いくらマイヤの命令で作らせたとしても「粗悪品」を市場に流通させるわけにはいかない。


 低レベルではあったが、採取スキルを持った客人に取って来る薬草を指示する。中には毒草もあるので要注意だ。

「お嬢様」

 ガイアが耳打ちする。


 どうやら、ヴァルッテリがマイヤを探しているらしい。

「どうせですから、さり気なく、、、、、ここへ誘導してちょうだい。ここを侮蔑するようであれば、どんな手段を用いてでも婚約は破棄しますから」

「お嬢様、あまり男前なことをおっしゃらないでくださいな。分かりました」

 さて、ヴァルッテリが来るまでに色々済ませておかなくては。

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