マイヤだって逃げたい
「事実も何も。神殿に婚姻から離縁に至るまでの書類がありますわよ」
通常、貴族は王都にある神殿に書類を持っていく。……が、嫌な予感がしたという男爵領で司祭を務める男と先代男爵が、謄本をアベスカ男爵領に隠し、全く同じ写しを王都の神殿に納めたのだ。弱小男爵領なりにリーディアを守ろうとした結果だ。
「……いや。こちらに戻られた際、離縁したという証明が取れなかったために再婚できなかったらしくてね」
嫌な予感大当たりーー!! うちの領民優秀だわ! と内心自画自賛しつつ、マイヤはため息を一つついた。
「でしたら、わたくしが取ってまいりましょうか? ウルヤナさんに護衛をお願いすればいいと思いますし」
写しをウルヤナに押し付けて、婚約をバックレてやる! そんな方法をマイヤが思いついたのに、当然ベレッカが気づいていた。
「……お嬢様」
「あら、ベレッカ。顔が怖いわ」
「お嬢様が碌なことを考えていらっしゃらないからです」
「酷いわ!!」
ベレッカとガイアに対して悪だくみは通用しないものなのだ。
「……どんなことを考えているか分からないけど、ウルヤナを護衛にすることはないよ」
「あら、名誉挽回、汚名返上だと思いませんの?」
「思わない。今の状況で再度グラーマル王国に行ったとしたら、ウルヤナはまた問題行動を起こす」
起こさせたいくらいだ。マイヤ達には一切責はない。
「理由をお聞きしても?」
「元々ウルヤナは身内を数名グラーマル王国兵に殺されている。ただでさえグラーマル王国憎しの感情が強いところに、先ほどの捕虜の話だ。我がローゼンダール帝国の捕虜が王国にいると思っているはず」
「つまりはその方々と接触を図ると?」
「あり得ないとは言わせない。その上で外交問題に発展するように元捕虜を解き放ってもおかしくはないからね」
「ふふふ。そのような戦のネタになるようなことは致しませんわ。そうなる場合は、アベスカ男爵領の総力を挙げてでもウルヤナさんを殺めますわ」
「……それはそれで外交問題なんだけど」
「あら、ここにいる方々、もちろんヴァルッテリ様も証人です。わたくしたちは戦を避けるためにしたのだと」
「……君はやりにくい」
「褒め言葉と取っておきますわ」
戦を避けるためだ。そこまで言えばウルヤナとて馬鹿なことはしないはずだ……と思いたい。
「ちょうどいい。五日後婚約発表の席で着てもらうドレスも持ってきてもらうのが一番だ。私たちも行こう」
婚約発表が五日後とは。やはり嫌がらせか。夜会等に着ていくドレスなど一着もない。
ベレッカたちも一緒に、とあっさり言うヴァルッテリによって再度アベスカ男爵領へと戻ることになった。
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