生きることは、悲しみに満ちている。わかり合いたいと、儚く願っている。

科学文明の崩壊し去った遠い未来のどこかでは、
前近代のユーラシア大陸にも似た世情が現出し、
人々はそれぞれに過酷な環境の中に生を受けて、
運命に翻弄されるように、相争って生きている。

銀色に輝かんばかりの美しい姿をした〈古老〉。
特異な容姿とともに不思議な力を持った彼らは、
己が何者であるかを求めて苦悩し、旅を続ける。
鳥の名を以て自分の名とし、家も里も持たずに。

〈古老〉である鷲、隼、雉、その家族である鳩、
家族に加わる鷹や、かつて家族であった鳶と鵙、
それぞれの背負う人間ドラマから目が離せない。
緻密に描かれた心模様に毎度、胸が苦しくなる。

また一方、綿密に調べられ構築された世界観は、
絶えない戦禍の緊迫感を痛いほどに描き出して、
なぜ戦をするのかという価値観の対立の最中へ
読者を巻き込み、その根深い葛藤に対峙させる。

草原の描写がとても好きだ。そこにある自然と、
遊牧民の暮らしぶりや彼らの文化伝統、人間性、
戦を巡る独特の価値観、秘匿された滅びの予兆、
そして、トグルを王に選んだときの彼らの変容。

壮大であり緻密でもある本作『飛鳥』について、
その魅力を上手にまとめて語ることができない。
彼らがあまりにも人間くさすぎて、何というか、
「キャラ」ではないんだ。「人物」だと感じる。

とうとう完結してしまったことが本当に寂しい。
本当はもっとずっと彼らの世界に浸っていたい。
部の区切りでレビューまとめておけばよかった、
とかいうことを思っていて。読み返せばいいか。

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