夜更けに静かに涙がそそがれるような

2ヶ月も前に読了していたのですが、読み終えたあと直ぐにレビューが書けませんでした。この作品の読書体験を記せるようになるまで、騒擾がおちつく期間が要る——そんな作品はないでしょうか。わたしにとっては、この『炭酸水と犬』はそんな作品です。時間が経ち書ける気がしてきましたのでレビューを書かせていただきます。

夜更けに一気に読了したのですが、静かな深夜になぜか涙が流れました。どうしてかは、自分でもわかりません。自宅やオフィスの小道具の細かな描写のリアリティに、すっかり物語の世界に呼吸していましたし、一人一人の登場人物の、いるいるこういうひと、こういう感じあるある、の息遣いや手触りに、気づくと既知の間柄になってしまったようにも思います。
読者の現実——雑然とした、我慢することの多い、相手の弱さを結局受け入れなければならない、どうしようもない現実に、特に女性は疲れてしまい、年齢とともにナイーブなさまざまのものを諦めていきます。
そんな現実を、リアリティの中からカタルシスしてくれる物語です。
なくしていた、純愛ということばを思い出させてくれました。
現実にちょっとくたびれてしまった女性の、絶妙な琴線に触れてくれる、素晴らしい作品です。
書籍化したら、購入したいと思います。

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