話の筋だけを追えば、上質なサイコサスペンスで、二転三転する関係性の逆転が何の違和感もなく、純粋な驚きと幸福な読書体験をもたらす種類の作品でした。そして、その核にいる佐嶋遊というヒロインの異常性、異常な存在感が素晴らしい。しかしこの作品では、ただただ異常な遊に周囲が翻弄されるだけでは終わらず、彼女に様々な不自由を強いられながらも奇妙な偶然によって共存を許された主人公である沢渡、子飼いの女が死んだときですら鼻で笑う女衒の姫川など、遊を支える助演的キャストが素晴らしい存在感を発揮する。結果、遊を中心とした狂気がむしろ遠心力を発揮して大災害になる。一万字という制限を感じさせない重厚さにただただ読んで脱帽する作品でした。