一話の中に、色んな人物の大切な思いがぎゅっとつめられた物語です。人を、そしてそれの抱える内なる感情を知らなかったミヤマ。自分の中に踏み込んでくる彼を時には拒みながらも、徐々に溶け合っていく少女。その二人の姿がとても暖かく、だからこそ切なく映りました。そして、少女の身をまるで母のように案じるジョロウグモの言葉が、妖しくも強く響いてきて素敵でした。“自分の命を抱えるだけで精一杯の子に、他人の命まで背負わせるつもりなのか”――終わりある命、その中で見る一時の夢。けれどその夢の中に、確かに息づく何かがある。
家に引きこもっている少女が玄関先で見つけたのは無残な蝶の姿。心の優しい少女は蝶を弔う。すると黒縁に金緑色の羽を背中につけた青年が家にやってくるーー。と、鶴の恩返しのような童話テイストでお話が進みます。一緒に過ごした少しの時間が、すごく儚く、幻想的で、素敵でした。少女の心に抱えるものが、少しでも晴れていたら良いなと思います。
少女のふとした気まぐれで弔ってやった蝶が、美しい青年の姿で現れる。蝶のアヤカシは「ここにいさせてくれ」と言うのだが……。幻想的でどこか懐かしい香りのする、美しい掌編です。家に引きこもる繊細な少女を守ろうとする、蝶の青年ミヤマの一途な思いに打たれます。「君は強く、そしてとても、やさしいんだよ」ミヤマの最後の言葉に、救われる思いがしました。
みたものが夢なのか現実なのか、幻想なんだとしても、ハッと眼が覚めたようになる読後感は現実味があって心地良かったです。
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