生きることは苛烈だ。それでも彼らは進む

「異なる種族」が共に暮らす世界を舞台とした、主人公達の物語である。
地球人とテゥアータ人の間で徐々に深まる溝、そしてそれに伴い生まれる多くの悲しみ、憎しみ。
読者の目からすれば、彼らの争いを見てどちらかに軍配を振り下ろしたくなるだろう。しかし実際自分達が同じ環境にいたら、果たして平等を貫けるだろうか。そもそも何が正しくて何が正しくないかなんて二分化出来るほど世界は単純ではない。

穏やかにも見える丁寧な描写、淡々と紡がれるストーリーの上で登場人物の台詞は読む人間に感情を与える。
それは背景描写が、どちらかに肩入れをしたものではないからだ。
止めることが出来ない時の流れを巧みに描くことにより、一層彼らの台詞が重みを持っていると思う。

二つの種族はいくつかの選択肢を選び、あるいは捨てて、段々と変質していった。
登場人物たちは、自分一人では覆すことが出来ない大きな流れの中、それでも一人ひとりが精一杯に出来ることを探し続ける。時に絶望し、時に袂を分かち、時に希望を見出しながら一歩ずつ前へ前へと進んでいく。
何が正しいのかではなく、何をすべきなのかを見据えた先。そこにあるのはハッピーエンドでもバッドエンドでもなく、掴みとった未来である。
苛烈なまでに命を燃やして彼らは生きる。その結末が何であったとしても、きっと後悔はしない。

それぞれが選んだ道と途上をその目で見て欲しい。そう思わせる作品である。

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