君はこの物語を読んでもいい。読まなくてもいい。

主人公の名前が“ヘルメス・サギシトリマス”。ああ、こういうセンスを笑える人向けの作品ということか。すまない、僕には必要ない。

そう思う君の判断は悪くない。現に私だって同じ考えだった。
だが読み始めてみると、奇跡から科学が切り離されつつある世界を背景に、散りばめられた魅力的な登場人物各々の因果が、進むにつれ絡み合い、過去を掘り起こし未来を形作ってゆく。そんな非常に繊細で丁寧な物語を十全に堪能することができた。

内に真理を秘めるが故に詐欺師を自認する男の、飄々としつつ痛快な、颯爽とした韜晦の冒険譚を。君も騙されたと思って読んでみるのも良いんじゃないか?

その他のおすすめレビュー

藤村灯さんの他のおすすめレビュー35