第2話

 自室の隅で、うずくまったまま動こうとしなかった。

 何時間、そうしていただろうか?

 頭の中身が脳みそと鉛が交換したかのように重いから……寝てたのかもしれない。

 今、何時だろう? 携帯を、床に倒れている鞄の中から取り出す。

 部屋には時計があるけれど、いつものクセで携帯で時刻を確認してしまう。


 待ち受け画面には、笑顔の俺と――――彼女の姿が。


 思わず携帯を投げてしまった。収まっていたはずの痛みが、再び胸に走る。

 大好きだったはずの笑顔が、こんなにも辛いモノになってしまうなんて。

 そういえば、美雨の笑顔は……いつから見ていないだろう?

『別れて、遼君』

 そう告げる彼女の顔は、まるで仮面のようだった。あまりに無機質だった。

 でも両目に宿る意志は本気で、揺らぎなくて、真剣だった。

 俺にはわかっていた。

 俺との関係を解消したい事を望んでいる事は、わかっていた。だから美雨が別れ話をすると予測していたから、別れを切り出されても取り乱したりしなかった。

 素直に……了承した。

『……わかった。別れよう、美雨』

 俺は彼女の望み通り、別れることに同意した。彼女の望みを叶えてあげた。

 前に、美雨の望みをきいてあげたのは……いつだっただろう?


 自然の思い出を巡らせてしまう。電気もつけない部屋の中で。

 次々に思い出される過去の記憶……ふと、それが意味ないことだと悟り。


「…………はあっ」


 大きく溜息を吐いて、首を横に振る。そんなことで現実は消えない。

 美雨とは別れたんだ。

 次の瞬間、携帯が震えた。新着メールだ。まさか……美雨、だったりして。

 慌てて確認すると親友からの他愛もないメールだった。

 少し、救われた。指先で返信を済ませると、ゆっくりと身体を伸ばした。


「遼、起きてるー? ごはんよー!」


 母さんの声が階下から聞こえた。

 俺は大きく返事をすると携帯を充電器に差して、部屋を出た。

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