第3話

 今週の土曜日は、親友の相沢あいざわ かけると家でゲーム三昧の約束をしていた。

 それぞれのゲーム機を操作して武装したキャラクターを動かし、いざ狩りへ!


「超回復ポーション持ったぁ?」

「マックスで持った。お前は?」

「仙人の万能薬……持たないとヤバいよね?」

「まあ、必要だと思うんなら持って行ったほうが良いんじゃない?」

「必要だってはっきり言ってよ!」


 討伐対象は《闇黒の獰猛竜》だ。

 何度もリタイヤに追い込まれている最凶のモンスター。

 今日こそ最強ハンターのコンビで、ぶっ倒してやる!!


「…………あー! 冷却剤持ってくんの忘れたー!」

「なんという凡ミス」

「支給ボックスで補うから大丈夫」


 マグマ流れる土地を駆け進んでいくと、空上からドラゴンの咆哮が降り注いだ。

 二人同時にアイテムを使い、強い閃光で目が眩んだドラゴンは落下。

 もがいている竜を二人して滅多斬りにしていく。

 今まで一番幸先良いスタートになった。

 既に、このクエストは十数回も繰り返している。今更、打ち合わせも何もない。

 武器の扱いも慣れたものだ。

 しばらく攻撃を続けていると、ドラゴンが逃げていった。

 二人して追いかけていく。他のザコなど目もくれず、広い広いフィールドを走る。

 戦いが一時ブレイクしたことで、駆は世間話を振る余裕が生まれた。


「そういえばさ」

「ん~?」

「この前さ、彼女と喧嘩したって言ってたけど、どうなったの?」

「あ~……うん」

「ウンじゃ、わからねぇし(笑)」

「もう、別れたから」

「は?」


 キャラクターが壁に激突した。のに、軌道修正しようとしない親友に向き直ると。

駆は、口をあんぐり開けて惚けていた。

 失恋報告をした俺よりも、リアクションがわかりやすい。


「え? えっ?? いつ別れたって?」

「だからさ、一昨日別れたからさ」

「一昨日って……え、何? 振ったの?」

「俺が、振られた」

「振られた!? オレはてっきり……」


 そこで駆は、ばつ悪そうに口を噤んで視線をゲーム機に戻した。

 そしてゲームを一時中断して、俺に再び向き直った。


「ま、まあ……その……うん。気分転換なら、いつでも付き合うし!」

「……ありがとうな」


 駆は良い奴だ、と改めて思う。

 明るく気さくな性格で、人を惹きつける魅力溢れたムードメーカー。

 コミュニケーション能力が高いから、話しも上手いけれど聞き上手でもある。

 美雨とのことも、駆にはいろいろ話していた。

 ほとんど……悩みや愚痴だったような気がする。

 一番最初に話したことは確か……「初デートが大変だった」だ。

 人生初の恋人と、人生初のデートを楽しんだはずなのに。

 それを素直に言うのが恥ずかしくて、わざと大変だったことばかり並べたてて。

 駆に『お前ら、これから大丈夫か?』と呆れられながら心配された。


 美雨は、俺と付き合って幸せだったのだろうか?

 その答えは、すぐに出た。幸せじゃなかったから、別れたんじゃないか。

 幸せだったのは俺だけ。じゃあ、いつから美雨は幸せじゃなかったんだろう?

 俺は携帯を開いた。まだ変えていない待ち受け画面。

 この頃は、互いに笑顔を浮かべていたんだ。幸せだったんだ。

 一体いつから……変わってしまったんだろう?

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