第6話

 しばらくすると美雨は、どこかへ行こうと提案しなくなった。

 代わりに好きな映画のDVDを借りて持ってきたり、テレビやテーブルゲームなどやりたいと言ったり、するようになった。

 彼女も、インドアの楽しみに気づいてくれたのだと思っていた。

 交際は順調だった。

 夏休みが明けて、新学期が始まったばかりの九月。

 美雨の誕生日が二ヵ月後に迫っていた。

 何をプレゼントしようか迷った。直接『何が欲しい?』と訊いた方が無難だが……駆が『女子はサプライズが大好きなんだって!』と助言を受けていたので、驚かそうと思って必死に考えた。

 そして前に一緒に下校した時、大通りにあるアクセサリーショップに目を奪われていたのを思い出し、そこで売られている一番人気のデザインのネックレスを買おうと思った。

 バイトのシフトを増やした。必然的に会える日が、ぐっと減ったけれど我慢した。

 全ては美雨が喜ぶ顔を見る為だった。



「今度の祝日、遼君と会えるのが楽しみ!」


 電話先の美雨の声は明るかった。

 しかし、その言葉を聞いた俺は大声を上げてしまった。


「あっ!? ご、ごめん美雨。その日は、ついさっき店長からシフトを入れてもいいかって聞かれて……入れても大丈夫ですって答えちゃったんだ」

「あ………そうなんだ。あーあ」

「マジごめん! すっかり忘れてた……!」

「いいよ、大丈夫。バイト、忙しいんだもんね」

「本当にごめん……」

「……ねえ、遼君」

「何?」

「バイトが一段落ついたら、こんど――――ううん。やっぱ何でもない」

「いや、どうしたんだよ?」

「ほんと何でもないよ。やっぱりいいから」

「そうか?」

「うん。だって遼君、外出するの嫌いでしょ?」


 美雨の声は、叩きつけるようだった。


「いや嫌いっていうか……」

「だから、もういいの。無理強いなんか、私はしたくないから」

「どこか出掛けたいの? じゃあ、美雨の誕生日に出掛けようよ」


 落ち込ませてしまった美雨を何とか元気づけたくって、そう口走ってしまった。


「……えっ?」

「どこか、美雨が行きたい場所、どこかある?」

「……別に」

「別にって……ほら、前に水族館行きたいって言ってたじゃんか。

 あれ? 動物園だったっけ?」

「いいよ。いつもみたいに家で会おうよ。電車の運賃が、もったいないでしょ?」

「いや、大丈夫だよ。それくらい」


 美雨の声が途切れてしまった。


「……美雨?」

「………………」

「あれ? 美雨?」

「………………」


 通話が切れたのかと思って、耳から携帯を離すと……微かに美雨の声が聞こえた。


「え? 何? ごめん、聞こえなかった、もう一回……」


 ブツリ――――拒絶するような音が鼓膜を傷つけた。

 何か、失言してしまったことはわかる。でも、どうして?

 約束忘れていたのは、絶対的に俺が悪いさ。でも、仕方ないじゃないか。

 別に、美雨のことを嫌いになったわけじゃない。

 むしろ大好きだから、いっぱい働いて、お金貯めて、プレゼントを用意して……。

 最高の誕生日にしてあげようって……それなのに。

 こっちだって会えなくて寂しい思いはしている。だから美雨の気持ちもわかる。

 でも、あんなふうに唐突に電話を切る事ないじゃないか……!


 しばらく俺はむしゃくしゃが収まらず、部屋の隅でうずくまっていた。

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