第11話

「でも、俺の気持ちもわかるだろ? だって久し振りに会った日にさ、彼女と他の男と話している場面見たら冷静じゃいられなくなるだろ? そりゃ言い過ぎたよ。

 怒ってないって言いながら、内心めちゃめちゃ気にしてました。

 美雨は、その先輩の事が好きなのかな、とか。

 俺の事は好きじゃないのかな、とか。

 もう別れたいと思っているのかな、とか」

「はあ……それで?」

「だから、美雨が泣いちゃって」

「それさっき聞いた」

「もう帰るって言って、そのまま帰って」

「その先!」

「えぇ!? あ……えっと」


 自分の気持ちを語っていたら、どこまで話したのかわからなくなってしまった。

 呆れた顔をしている駆の前で、俺は深呼吸してから頭の中を整理した。

 つまり、俺が相談したいことは…………。


「どうすれば、美雨と仲直りできるかな?」

「いやムリっしょ」


 駆がバッサリ言った。呆気にとられてしまいほど即答で、はっきりと断言した。


「む、無理って! いや、何で!?」

「何で? いや、そっちこそ、何で?」

「し、質問で質問を返すなぁあ!」

「だからさ、遼は何で仲直りしたいの?」

「何でって……美雨と、まだ付き合いたいから。まだ好きだし」

「好きなの?」

「もちろん好きだよ」


 駆は一瞬、黙った。そして目を側めた。


「その割には、最近グチがやけに多くないか?

 前から思っていたけれどさあ、遼の相談の第一声は、いつも『もう嫌だ』とか『疲れるよ』とか、ネガティブな言葉ばっかでさ。

 最近の話を聞く限り、二人の関係はギスギスしているようにしか解釈出来ない。

 客観的に見て……全然、楽しそうじゃない。

 そんな大変なことばかりの付き合いを、遼はまだ続けたいって?

 おかしいだろ」


 俺はすぐには言葉が返せなかった。

 いつも俺の悩みに共感し、同調し、心から慰めてくれた親友。

 それが、まるで乱暴に突き放すかのような言動。

 信じられなくて、うろたえながらも俺は必死に言葉をかき集めた。


「俺は、その……つい大袈裟に言っただけで。そんなに辛いわけじゃないんだ。

 そういう色々大変なことも楽しいんだよ! 美雨と一緒にいれば、全部楽しい!

 ただ、美雨は最近会えないことが多いし、会っていても…………」


 これ以上話すと……俺は口を閉ざした。

 八方塞がりという言葉を、体験したのは初めてだった。このまま黙っていると最悪な選択肢しか選べなくなるような気がして、小さく反撃した。


「俺は、このまま美雨と別れたくないよ」


 駆を見据えて言う。もしかしたら睨んでいたかもしれない。

 その瞬間、場の空気が変わった。


「あ……ごめん言い過ぎた。

 遼だって、自分なりに悩んでいて苦しんでいるのに、即座に、無理って断言したのは冷たかった。一緒に解決策を考えてやるべきだったのに……」

「いや。こっちこそ、いつも悪かった。

 愚痴や鬱憤ばかり際限なくあてられたら、誰だって不愉快に思うよな。

 駆の事を、ちょっとないがしろにしすぎた。ほんとごめんな」


 しばらく互いに謝る。

 謝りながら、俺は思った。

 どんなに仲が良い間柄でも、こうやって噛み合わない時ぐらい巡ってくる。

 でも、こうして謝れば……すぐに修正できる。

 だから美雨とも……俺が頑張れば……きっとまた仲良くなれる。

 そう、思っていた。そうなることを、俺は願っていた。

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