正面から『書く事』に向き合う人に、必ず響く作品です。

 作品の魅力を挙げて推薦するのがレビューの役目ではあるのだが、本作の魅力を表現する事はなかなか難しい。
「何処がエエんか巧いこと言われへんけどな、何かエエねん」
 本当に良い作品は、得てしてその様な形をしているものだ。

 ぜひご自身の目で、本作の魅力を確かめていただきたい……と丸投げしてしまいたいところだが、それではレビューの体を成さない。
 せめてワタシが、一番感銘を受けた部分を紹介しようと思う。

 ワタシの物語に対する定義を、そのまま詩的な文章で現した一節。要約などという無粋な真似はできないため、そのまま引用する。

” 言葉になずさう。物語の奥で鳴りはためく情動を築く。ほとんどは嘘で、わずかばかりは真実で、螻蟻にも塵芥にも満たない命を、言選りによって組み上げる。触れた誰かが、須臾、生きる縁とできればそれで御の字。傲岸な紛い物であることが最上。感性を止めるな。僕が僕の神であるという責任から逃げるな。真の振りをした模造品しか作り得ないのならば、その嘘を貫き通せ。例え誰ひとり騙すことができなかったとしても。どうせ僕だって騙されはしない。そこにある言詞の群れが、連なれば何もかも空言となることを知っている。”
引用元:『夏の言霊』三  何って、差し入れ。

 解説するのもまた無粋。
 どうぞ皆様の、読み取られたままに……。

 もちろん引用部分はワタシが感銘を受けた部分であって、この作品の本当の魅力は別のところに在る。

 もしかすると、定常的に用いない表現や、谷崎潤一郎を彷彿とさせる改行の少ない書式に圧倒されるかもしれない。
 しかし言葉というものに少なからず興味をもつ方であれば、美しい韻律に誘われ心地の良い読書となるはずである。 

 ぜひご自身の目で、本作の魅力を確かめていただきたい。

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