美味しい物を食べてこその人生なのです

食道楽というと、異世界ものではもう既に定番らしいですが、SFで食道楽とは珍しい。
わくわくグルメ、なんていうサブタイトルもついているくらいだし、私のようなSFはそれほど嗜んでいない者でも読めそうかな、ということで読み始めました。
これって、タイトルから受ける感じと違って、かなりハードな内容じゃないですか。
灰の降る街で特務捜査官として生きるトシヤと、その相棒となることになったミィ。
単純にバトル自体も過酷ですが、二人の置かれた境遇がまた、救いが無く厳しい。
せっかくその地の人と仲良くなりかけた、と思ったら引っ越しを余儀なくされて、といったやりきれなさの繰り返し。
そんな中で、トシヤとミィの二人が少しずつ絆を深めていくのが良いところです。
全体的には連作短編という形式になっていて、一つのお話ごとに、二人は一つの決着をつけて前に進んでいくことになります。くどくなりすぎないSFガジェットと相俟って、本作品の読みやすさにつながっていると思います。
そしてなんといっても本作の特徴は、グルメでしょう。
それこそ異世界食道楽モノのような緻密な料理描写。そして、実際にはそんな大した料理でもないはずなのに、旨そうに食べる登場人物たち。
ハードでビターな内容のSFとグルメネタを、貴乃花のような真っ向勝負で融合させてくるとは。
いやでもこの斬新な発想と、そこから発生するなんとも不思議な食感こそが、この作品をSFたらしめている最たるものなのかもしれません。

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