この作品の主人公は弱いです。
いや、そりゃ世の中には最弱を謳いつつも実際にはなんかすごい能力で無双するような主人公も多々存在すると思いますが、本作品の主人公は本当に弱い。
なぜなら、やられ役として負けが確定しているから。噛ませ程度にしかならない。
そんな弱いヤツが主人公でどうすんのよ、という感じではありますが、そこを面白く描いているのが本作品の楽しみどころです。
物語には主人公以外にもそれぞれ役割を持ったキャラが存在するもので、ヒロインであったり、ヒロインの中でもメンヒロではない負けヒロインがいたり、主役にやられる役であったり、ヤバいラスボスであったり、トラブルメーカーであったり、ただの雑兵であったり、そういったキャラたちが上手く絡み合ってこそ面白い物語となるものです。
本作品では主人公以外にも多数のキャラが登場しますが、そのキャラたちがそれぞれ明確な役割を持っているので、とてもリーダビリティが良い。
キャラの持っている役割が強固であれば、それは実質異能バトルでもあります。たいしたことの無いと思われていた能力が意外なところで役に立つこともあるかもしれない。
キャラクターたちはちゃんと役割を果たしているんだけど、それでいてありきたりにならないとろこがすげえ。
負けとは何なのか。逆に言えば勝ちとは何を以て勝ちとするのか。弱さとは何なのか。逆に言えば何を以て強いとするのか。そこに向き合って知恵を巡らし努力する主人公の姿が読者の心にしっかり噛みついて離さないということになるでしょう。噛ませですし。
本作の主役は「やられ役」です。え? 何言ってんの??
そう、主人公の鎌瀬(かませ)君、名前でわかる咬ませ犬的な存在を、世界の理として背負わされた悲惨なキャラなのです。
そんな彼が自身の死亡フラグをへし折る為、他の様々な属性を持つキャラクター達と手を組んで活躍していくお話。
まぁよくある脇役の大奮闘的なお話ですが、面白いのは世に溢れる物語の様々な脇役やチョイ役、無様役やひっかき回し役などにしっかりとスポットが当てられている事。
普通の物語では路傍の石の用に使い捨てられている「お約束」キャラ達が、その個性を存分に生かす舞台が与えられている事なんですよね(活躍するとは言ってない)。
それは主役の鎌瀬君自体が「その立場」にいるからに他なりません。やられ役という立場に居るからこそ、主人公以外の人間の立場を自分と同等に比して、そして関わり合って行ける。そんな世界はある意味の優しさを内包してると言っていいでしょう。
主人公補正が溢れる世界に飽きた貴方、ちょっとひねくれた(誉め言葉)この学園を覗いてみませんか?