第12話 冥界神は博識


「来おったか。まずは手土産をいただこうか」

 どこから稔憲の行動を見ていたのかと言いたくなる言葉と共に、扉の前で待っていたのはまさかの冥界神。

「こういう時、其方は間違いなく儂のもとに来てくれるからの。隆文君が仲間に加わってからは、彼の手土産が期待できるしの」

 見てはいない、そう言いたいらしい。

「私は持ってくる予定はなかったのだが」

「隆文君が止めるであろう? 彼の者は律儀じゃ」

 聞けば何ということはない。流石冥界神といったところか。因みに、天界にこういったお伺いをしたことはない。大抵面倒ごとの処理を任されるので、持っていきたいとも思わないのが現実である。

 それは稔憲が転生する前から変わらない。


 後先考えずに加護を与えた話になれば、冥界神は笑っていた。

 現在、二人の前にあるテーブルに乗っているのは、隆文作の弁当とクッキー、それから冥界で取れる薬草で作ったお茶。なんだかんだ言って、冥界神も隆文に餌付けされている。その証拠に、弁当を食べるのをやめない。

「最高神からも聞いておるぞい。地母神は地上のあらゆるものを慈しみ、実りをもたらすのが役目。仕方あるまいて」

「それで済ませるあなたが凄いと思うが」

「ははは。代わりと言ってはなんだが、地球には冥界というものが存在しないのか? はるか昔、神代の頃でもいい」

「神代、というよりは神話という形で話が残っている。一応、私のいる日本には『地獄』があり、罪を犯した者が処罰を受け続けるという言い伝えはあるな。あとは伊邪那岐イザナギ伊邪那美イザナミの物語があるが」

「他は」

「色々ありすぎる。国ごとに伝承があるし、現在ある宗教ごとに冥界の定義が違う」

「研究のしがいがあるのう」

「一般的に死んだ者が行く先の一つだな」

「転生せんのか?」

「宗教による」

 ヘブンズでは、罪人のまま死した者は神々に許されるまで使役される。他は記憶を神々に預け、転生する。預けたはずの記憶を持っていたりするのはご愛嬌である。

「ふむ。どのように彼女らをもてなそうかの」

「……は?」

「召喚されたのは、女子おなごだぞ」

 ゆっくり迎えに行くかと思っていたが、さすがに急ぐ必要がある。流石に……女性が性的に被害を受けるのは避けたい。

「慌てるでない。儂の子飼いをあ奴らの配下に憑け、『処女を失えば地母神の加護はなくなる』と言わせておる。いつまで騙されるか分からんがの」

 どちらにしても早めに迎えに行くことに、越したことはない。

「で、どのようにもてなせば喜ぶかの」

「知らん。隆文と二人で彼女たちを連れてくる。その間にどのようなもてなしがいいか、隆文に探ってもらう」

「其方はせぬのか?」

「私は無理だな」

 女性どころか、隆文と人造人間以外とは話が続かない稔憲である。


「さて、冥界神を敵に回した報いは受けてもらうか」

「ほっほっほ。お手柔らかにの」

 さりげなくあちらに混ざるために、弟子たちにも協力を要請しようか。


 いでたちをそこいらの魔術師と同じにした稔憲は門を再度くぐった。

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