第23話 異世界賢者の常識は世間の非常識

 少しばかり話を聞いておいた方がいい。稔憲はそう判断した。

「いくつか聞きたいことがある。言いたくなければ、言わなくていい」

 その言葉に、女性が目を丸くした。

「言わなくて、いいんですか?」

「構わない。あなたも、もう一方ひとかたも私よりも召喚した側を信じているようだし」

 その辺りは無理もないとは思うが。


「私たちが信用ならないというのは、あなた方の判断か?」

 その一言に女性の肩が一瞬、びくりと震えた。

「いいえ。私の判断、、、、です。絵里奈はその言葉を信じました」

「ふむ。先ほどの絵里奈さんの言葉とは矛盾するね」

「……よく、覚えていますね」

「記憶力だけはいいんだ」

 そうでなければ賢者になどなれやしない、というのは黙っておく。

 悔し気にする女性を無視して稔憲は質問を続ける。


 それに対して女性は応えない。応えてしまえば、今まで信じていたものが崩れるから。それを分かっていて稔憲は聞くのだ。

「さて、これを最後の質問にしたいのだが。あなたと絵里奈さん、どちらが勇者としてばれた?」

「……どういう、意味ですか」

「言葉通りだよ。あなた方が通ってきたは、一度に通れるのは一人のみと決まっているからね」

 稔憲が構築したものを利用しているのなら、まず間違いない。今の扉だって、神々の力を使わなければ、一度に通れるのは一人のみだ。……時間を置けばもう一人通れるようになってはいるが。



「そんなこと、誰も……」

「言わないだろうね」

 封印したあれを再稼働させたのが誰なのかは分からないが、まず術の構築、構造、必要な術力。すべてを知っているものが携わったとは思えない。


 ……もっとも、すべてを知っているのは稔憲だけなのだが。

 稔憲以外が別に構築したものを使ったのだとしたら、神々はもっと慌てたはずである。それこそ、弟子を使者にたてて呼び出しをかけてきただろう。

「強いて言うなら、あの召喚門に関わったことがある、とだけ言おうかな」

 移転門とは言わず、あえて召喚門という言葉を使った。

「つまり、私たちがこの世界に来たのはあなたのせい?」

「それは違うかな。私はあんな不完全なもの、使いたいとは思わない。きっちりと凍結したよ」

「とう……けつ?」

 女性がものすごく怪訝そうな顔をしていた。何かおかしなことを言っただろうか。

「……トニー。まず間違いなく、あれはアーティファクト扱いされてるぞ。しかも、古代聖遺物とかそのあたり」

 今まで黙って聞いていた隆文が口を挟んできた。たかだかが数百年前、、、、の出来事だ。


「……すまん、こいつはその辺り若干ずれているから」

「若干じゃぁないと思います」

 たかだか数百年前、そう称した稔憲に、二人はそんな言葉を返したのだった。


 他は絵里奈が起きてから話をしよう。そう結論付け、一度休むことにしたのだった。

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