第9話 色々頭を悩ませて
本邸にある会議室に集まった弟子と孫弟子の半分、それから集落を代表する面々は、皆一様に稔憲を見た。
そして、集まった面々に茶と菓子を出しているのは隆文と、人造人間たち。
会議内容よりも、目の前に出された茶菓子にいつ手を付けていいか、というのを聞きたいのだ。
「……お前らね」
それに気づいている稔憲はため息をついた。まぁ、いい。茶に口をつけ、そのまま皆を促す。しばらくは茶と菓子で頭がいっぱいになっているはずだ。
「隆文、お前も一緒にいて欲しい」
「いいの?」
「私じゃ説明が難しい。それにこいつらも私と同じで自分で実験はしても、そういうものに他者を巻き込まない」
「……よく分からんが、とりあえず俺も説明に混ざるってこと?」
「そういうことだ。頼む」
「りょーかい。それが終わったらキッチン借りる」
「? いちいち了承摂らなくていい。ただ、私のインベントリに入っている食事が少なくなった。そちらの補充も頼みたい」
「ガザエルさんのところに行った時点で想像ついているから問題ない。アレックスたちに頼んで調達終わってるし」
「助かる」
こんな会話が、後々に問題を起こすなど二人とも気づいていなかった。
さて、と稔憲が話を切り出す。ここの主はあくまで稔憲であり、その補佐がフラウやガザエルなのだ。
で、話を聞いた面々は呆れ果てた。天界の神々にもだが、それ以上にそんな馬鹿なことをしでかした国に対して。
「大御師様だって何百年とかかってやっと理論を作り上げたあの研究を、しかも不完全だからという理由で一度凍結したのに」
「え? 稔憲、一度凍結してたの?」
「転生前の話だ。冥界神にもお伺いをたてつつやったのだが、最後がうまくいかなくてな。冥界と天界に転移先を持っていって何度も実験したのだが……」
「お前が渡って色々研究したのな」
「当然ではないか。私自身がせずに誰がするというのだ。己が行ってみてどれくらい離れているの分かるというものだ」
人は
「おそらく大御師様がご存命の時に、地母神が祝福をかけた大地があったでしょう。そこに十年ちょっと前に建国された国がそれを行ったのかと」
自称「地質学者」のアイリーンが地図を見ながら呟いた。だが、稔憲にそんな大地があったのかすら記憶にない。
「大御師様にはこう言わないと分からない。我らの師であり、あなたの弟子モスコが大失敗して冥界神と地母神を怒らせたでしょう」
「……そんなことがあったな」
時々何かとやらかす弟子もいた。モスコはその大失敗で命を落とした。現在は冥界神の完全なる手足として、冥界で嬉々として仕事をしていたはずである。
「その時の怒りで、海に新しい大地が出来まして。祝福を与えねば生きとし生けるものの営みが出来ませんので、地母神が祝福を与えました。そこに、ゴードランド帝国の継承者争いで負けた第一王子が逃げて新しい国を作ったんですよ」
「第一王子というと、あの聡明な皇帝の子供とは思えない愚者のことか?」
「はい、それです。皇帝が何があっても帝位を渡せないとして、同母弟であった第五王子を立太子させたのですが。……まぁ、あの馬鹿王子が皇帝と皇太子を暗殺しまして、次点の皇太子として名高かった第三王子がやったと騒ぎまして」
「阿呆か」
それしか言いようがない。どうでもいいことだが、第二王子がガザエルでフラウの兄がガザエルの乳兄弟だったという。フラウが「とりかえっ子」だったため、稔憲が弟子にしたのだが、それを羨んだ変わり者の第二王子が追いかけて来た。そして、その才能に気づいたもののこれ以上弟子を取るのが難しい稔憲に代わって、一番弟子が弟子としたのだ。
「あの人もさ、自分の能力を客観的に見ればいいのにさぁ」
一人どうでもいいと言わんばかりにガザエルが呟き、即座にフラウが叩いていた。そういう問題ではない。
「兄上も馬鹿だよねぇ。おだてる奴らの話しか聞かないし。父上とご正妃様が何度戒めても無理だしさぁ」
そう言うなり、ズズズという音をたてて茶を飲んだ。
「そもそも、血統以外で帝位継承条件を満たしていないはずだったな」
ゴートランド帝国の帝位を継ぐには、血統、人となり、帝王学、そして魔力。これが最低条件と言われるほどだ。そういう意味では異母弟であるガザエルの方が、帝位は近かったはずである。
「ですです。んで、
天界最高神と冥界神の加護付きの扉で、
「あろうことか、御師様に弟子入りした私に命じてきやがりまして」
「……」
色々終わっている。
「その隙に私の同母弟が扉を開けまして、逆に簒奪者として追われることになったんですよねぇ」
「そんな奴によく人が……」
「そりゃぁねぇ、隆文君。お国にいたら処刑されるのだよ。だったらついていくしかないだろう?」
そんな犯罪者ばかりがその大地に逃げ込んだらしい。そして、他のことで当時手いっぱいだった天界はそのいきさつを知らず、そのままになっていたという。
「天界人事も考えた方が……」
隆文の言葉に頷きたい気分の稔憲とその愉快な弟子たちがそこにいた。
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