第8話 住まいと弟子と孫弟子と


 稔憲が根城にしている家は、実は大きい。その中で稔憲たちが使うのは通称「西の離れ」と呼ばれる場所だ。転生前から稔憲はここに住み着いており、道具が大変使いやすい。移転門もここの地下に設置している。

 それを知るのは、生前最後の弟子と呼ばれる妙齢の女性だ。名前をフラウという。フラウとその弟子たちは南の離れに住んでおり、時々遊びに来る。

 東の離れには、一番弟子の後継者たちが住み着き、北の離れは俗にいうゲストルームとなっている。中央にある邸宅は、最近では会議やら弟子たちが集まる時にしか使われていない。

 作った当初は邸宅と西の離れだけだったのだが、いつの間にやら増えたのだ。現在、家の周りには賢者は言うに及ばず、魔術師や魔道具技師に錬金術師など、魔術・魔法に関わる者たちが集まる集落と化している。

 集落という規模を超えて、都市といってもおかしくないくらいだ。


 情報収集ということで、稔憲はフラウのところへ向かった。

御師おし様がこちらにいらっしゃるなど、めずらしいこと」

「すまぬが、中央本邸に人を集めて欲しい」

「如何なさいました?」

「天界の住民から余計な仕事を貰ったのでな」

「道理で。御師様が予定より早くいらっしゃったわけですね」

 稔憲の性格上、遅くなることはあっても早くなるということはない。最後の弟子といわれるだけあってよく知っている。

「ガザエルには私が伝えに行く」

「かしこまりました」

 そのまま移転術を使い東の離れへと向かった。


 ガザエルは一番弟子が持った弟子の中で一番弟子と稔憲の二人がその才能を見込んだ男である。そして、フラウよりも年上であり、予想以上の偏屈者……ではなく「狂科学者マッドサイエンティスト」である。一番弟子が頭を抱え「御師様に誰よりも似ていやがる!」と叫んだほどだ。

「失礼するぞ」

 返事はない。寝ているのか、睡眠不足で倒れているのか、実験か書物に没頭しているのか。心当たりが多すぎて絞りこめない。

 本日は書物に没頭だったようだ。

「ガザエル」

 近場で声をかけても返事がない。書物を取るのは最後の手段にして、隆文の作った飯と茶を並べていく。

 ぐぅぅぅ、という豪快な音と共にガザエルがこちらを向いた。

「大御師様、書物に集中している時になんてことを」

「取り上げるよりはましかと思ってな」

「……そらそうですが」

「そこまで空腹では、頭も働かん。隆文の飯だ」

「あの方に餌付けされていない、東の離れここの住民はいませんからね」

 匂いで気づいた獣人と獣人に聞いた住民がそろそろとガザエルの部屋にやってくるあたりで、色々終わりである。普段は近づかないのだ。


 後で頼んで再度作ってもらうことにして、インベントリ内にある飯関係を並べていく。


 ここまですさまじい勢いで食べるのなら、もっと食事を摂っておけと言いたくなる稔憲だ。

「大御師様だって、こっちの飯出してた時はなかなか食ってくれないって、フラウが嘆いていましたよ」

 確かに。前世では食事、睡眠よりも読書と研究を優先していた。現在は隆文と人造人間のおかげで、寝食を忘れるということは少ない。そちらの方が研究や読書が捗ると知ってからは、忙しいときには片手でつまめるものを隆文にお願いしている。……サンドイッチくらいなら、食パンがあれば稔憲でも作れる。おにぎりは、無限収納内に炊き立てご飯があった時くらいだろう。

大半の食材を隆文が管理しているので、稔憲は手を出さない。つまり料理をしない。挙句、洗濯もしない。どこぞのぐうたら夫のような生活である。それに対して、すべてをこなす隆文は、ある意味スパダリともいえるだろう。

 洗濯は機械を使わず魔法を使ってやっている。そんなフォローが時折されるが、それはそれで空しいのである。

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