第15話 飯の力は偉大……なのか?


 弟子たちが頭を抱えているなど、知らない稔憲は早速島へと乗り込んだ。

「と~し~の~りぃぃぃ」

 やりすぎだと言わんばかりに隆文が忠告するものの、稔憲はどこ吹く風。

「逆に考えた。逃げてこの島に来たように見えた方が利用されやすいかな、と」

「そりゃそうだろうけどよぉ。船員に魔法ぶっ放すのはどうかと思うんだ」

「一応大した怪我にならないようにしたし、治った場合は今よりも筋力が付くようにした」

「やっぱりお前の存在自体がチートだよ」

 船員たちも見えなくなり、誰も見ていない・聞いていないのを確認してからの会話である。

「さて行こうか、テディ」

「だな、トニー」

 この先、稔憲が「トニー」で隆文が「テディ」と名乗る。

「ソロモンでもよかったんだけどね」

「ヤメレ。ソロモンとか、マーリンとかはやめとけ」

 洒落にならないし、もし地球からの転生者がいたらばれそうな名前である。


 今回、稔憲は「自分以外にも異世界転生者がいてもおかしくはない」ということを口にした。ヘブンズにおいて、魔界などというものは存在しないし、魔王などと名乗る馬鹿はいない。そして何より冥界神を「魔王」と称するあたり、ヘブンズにいる住民の発想ではない。


「さて、どんな馬鹿が出てくるかな」

 論破しようなどとは思っていない。ただ、各世界にはそれぞれの「常識」があり、それを無視するのが許せないだけなのだ。

「……お前はそういうやつだよな」

「何をしてもいいのなら、私は自分が利用する以外にも魔法を活用するぞ」

 というか、移転魔法を使って店に出入りしたい。自動ドアを使わずに出入りしたい。壊さない方法なら、魔法を使えばいいだけの話で。それをしないのは、曲がりなりにも自重しているからで。流石に家電製品を使えないというのが不便すぎるので魔法を応用しているだけなのである。

「俺もその恩恵に預かっているけどさ」

「隆文が使えないと、私が不便だからな」

 リフォームして暖房を暖炉に出来ただけよかったと思うしかない。他はオール電化のためガスすら通っておらず無理だったのだ。つまり、隆文か人造人間が料理してくれないと、稔憲は食うものにすら困るのだ。

「……地球は不便だ」

「お前、よく地球に残る気になったよな」

「食事の一件が無ければ残らなかった。あとは魔法と電気が通る前の生活をすれば何とかなるのが地球だ。ヘブンズの食事は……ちょっとな」

「ブラッドリーさんに言わせれば、ヘブンズの飯も悪くないって」

「日本に転生していなかったら、戻ったかもな」

 そのほか、食に偉大なる研究をしている国とか。

「飯は偉大だ。じゃないと俺は今頃犯罪者になっていてもおかしくなかった」

 それは結果論であり、飯の力ではない……はずである。

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