第2話 メンバー紹介
この世界には様々なものが満ち溢れている。
食も贅を尽くし、寝具も質がいい。上を見ればきりがない。店は年中開店しているところもあり、欲しいものは大抵探せば見つかる。
足を運べない距離にあったとしても、便利な箱に向かって「ぽちっ」と押せば手に入る。金があれば殆どが満足できるといえた。
例外はこの男、稔憲だ。一人暮らしをするようになり二年経過し、今年は晴れて高校生になった。
「主、また壊したんですか?」
ケニア国籍の男が、稔憲に向かってため息をつきつつ言った。
「仕方あるまい。私には難しいのだ」
「リアル日本人とは思えないほど、メカ音痴ですよねぇ」
「やかましい。私は家電製品と相性が悪すぎる」
「……主が魔法使う要領でやるからじゃないっすか?」
こちらはアメリカ国籍の男だ。稔憲の傍にいる者たちは全員年上に見えるが、実際のところ稔憲の魔術と技術の結晶である、「
唯一、同じ年の
隆文は幼稚園が同じだった。小学校が違ったが、中学でまた一緒になった。そして、親のネグレクトを見かねた稔憲が、そばに置くようになった。現在隆文は稔憲が元居たい世界、ヘブンズにて剣術の稽古を受けている。
魔法が使えなくとも、人間生きていけるものなのだ。……稔憲は魔法を使うということ自体が、呼吸をするということと同義語だったため、うまくいかないのだが。
それゆえ、稔憲はヘブンズに戻ることを決意。齢八歳にして、記憶変換を用いて
久しぶりの故郷! と喜んだのは地球時間にして一時間足らず。飯のまずさに敗退。まだ記憶変換を使っていなくてよかったと、胸を撫でおろし地球に戻ってきた。
で、戻って来てまず最初にしたのが、人造人間の核を作ること。核は、人間の母体に埋め込むことで、発動する。どうせだったら「子供がおらず、欲しがっている夫婦」に限定して世界各国にばら撒いた。
ばら撒くときには時間を歪ませ、自分よりも先に産まれてくるように設定して。
自力で生きていけないのは、確実なので。
稔憲が十歳になる頃に全員何かしらの理由で日本に来るよう設定して、魔力を使い切って寝込んだのはいい思い出である。
十二歳にして、宝くじ関連で賞金を稼ぎ、これで一人暮らしをしたいと申し出た。
難色を示したものの、「稔憲君は天才なので授業方法を変えないと!」という胡散臭いどこぞの大学教授の話に乗っかってしまった。出来れば週に一度、出来なくても最低でも月に一度の生存確認の電話と、長期休暇の時にしばらく戻ることを義務付けられたが。
迷惑をかけ続けてきたため、金の切れ目が縁の切れ目かと思ったが、未だにコメなどの食料物資が届く。ありがたいことなので、内緒で親に渡すための貯蓄をしている。
ちなみに、稔憲宅の電話は壊れないと評判の黒電話である。一応自衛策だ。
「ヘブンズの飯がまずいって言いますが、日本に比べたら大半がまずいでしょうよ」
そう言ったのはイギリス国籍の男だ。
男が多いのは、稔憲の世話をしてもらうのに女だと気を遣うからであった。まさかご近所の
……知らないほうが幸せなこともあるのである。
「たでーまー」
二日ぶりにヘブンズから戻ってきた隆文は、またしてもガタイがよくなっていた。これ以上よくなってどうする、という突っ込みは入らない。
戻ってくると、隆文は毎度土方のアルバイトに精を出すのだ。これがまた、隆文に筋肉をつける要因となっている。本人曰く「俺馬鹿だから、力仕事ぐらいしか出来ない」とのことらしい。馬鹿げている、というのが稔憲たちの言い分だ。
余談だが。
ヘブンズに行った時、全員に職業がある。
稔憲は言わずもがな「賢者」。未だ転生前の弟子たちに崇め奉られる存在だ。
隆文は「剣士」。騎士でもいいと思うのだが本人のたっての希望だ。「サムライ」でもよかったんじゃね? というのはアメリカ国籍の男、アレックス。
ちなみにそのアレックスの職業は「錬金術師」。本人が人造人間なのにいいのか、という突っ込みは方々から上がる。
イギリス国籍のブラッドリーは魔法使い。……なにぶんにも、イギリス在住時に色々な書物の影響を受けたらしい。稔憲としてはどうでもいいのでそのままだ。
ケニア国籍の男、コリーは「
他にも、稔憲たちと同じ日本国籍の男は「武道家」。産まれた家がその手の家だったという。それからチリ国籍の男は「吟遊詩人」。イタリア国籍の男は「狩人」、そして中国国籍の男が「猛獣遣い」。以上のメンバーが、同じマンションの、同じフロアに固まって住んでいる。
そんなわけで、稔憲たちのいるマンションのフロアは最上階であるにもかかわらず、住民が少なかったりするのだ。
「じゃ、俺は今から仕事行ってくるけど、買うもんある?」
「美味な茶を所望する」
「クッキー」
方々から要望があがり、それに見合う金を稔憲が出す。そして、その金を持って隆文が買い物を済ませている。
自動ドアを破壊させ、数店舗の店から出禁を食らっている稔憲が、生活に困らないのは、この人造人間たちと、何より隆文のおかげなのだから。
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