第3話 お出かけ前の準備


 そんな隆文がマンションを出る時にコンシェルジュに声をかけられた。

「本日、あなた方がお住まいのフロアに隣人が出来ます」

「あれま」

「これ以上、住民が逃げないようにしてくださいと、伝えていただけますか?」

「……一応言っとく。あいつ最近エレベーターも使ってないでしょ?」

「最近壊れないと思ったら、やはりそうなのですか?」

 一応学習した稔憲は、人気のない非常用階段で移転魔法を使っているはずである。


 他愛もない話は少しだけ続き、遅刻しないようにと隆文は別れた。


 仕事終わりにマンション近くの二十四時間営業スーパーに寄り、食材も買っていく。何せ、料理が出来るのは隆文だけである。というか、人造人間たちは「食べれればいい」なので、放っておくと生肉すら食べていたりする。食にある程度煩い稔憲は、暖炉で煮炊きするもの以外作れない。何せ電化製品を壊すので。

 アウトドア料理の時は着火剤もライターも要らないという、大変ありがたい男なのだが、自宅料理になると途端に駄目なのだ。

「しゃーねーよなぁ」

 稔憲の特異気質を理解している隆文としてはそう思ってしまう。親に見捨てられた隆文でも、稔憲は必要としてくれた。そして、隆文に必要な知識を教えていく大変ありがたい親友だ。前世が千年以上生きた賢者とかは関係ないし、人造人間を作ってそいつらに自分の世話をさせようとしている規格だとしても。

「一万六千五百九十七円になります」

 明日から全員でヘブンズに行くのだ。調味料は多いに越したことはない。そして、あちらにはない保存食品も持っていく。

 買い込みすぎた為、助っ人を呼ぶ。現在いる面子で、こういう時出てくるのはコリーとどこぞの大学教授だという、あおである。蒼はヘブンズには行かず、いつも留守番をしている。毎度土産を所望し、頼むのは書物だ。羊皮紙の本は高いし保存が大変なんだよ! という隆文の叫びは無視され続けている。

「毎度のこととはいえ、主様のリクエストは難しいですねぇ」

「いや、そこまでじゃないし」

「そうおっしゃっていただけるとありがたいですよ。主様も隆文様とご一緒に遊ぶようになって、年相応のお顔をされることも多くなりましたし」

 最年長なだけあって、蒼の言うことは違う。


「そういや、引っ越してきた人が挨拶に来たよ。主様に会わせないようにしちゃったけど、よかった?」

「構わないでしょう。主様の『非常識』にあてられてまた住民が変わったらコンシェルジュに嫌味を言われますし」

 コリーの報告を受けた蒼がそう返した。いやさ、確かに気づかいとしては間違いではないよ。でも、同じフロアに住む大半の住民が広い角部屋に集まっているとなったら、怖いんじゃないかな、などと言えない。言いたいところではあるが、言ってもどうしようもないというのもある。


 余談だが、蒼は一つ下のフロアの、稔憲の部屋の真下に住まいを構えている。理由は、移転門ゲート管理のためだ。稔憲の作った移転門はちょっと大きく、屋上と真下の部屋の上部を占拠している。それゆえ、それをごまかすための苦肉の策だ。屋上は分かり難いのでそのままになっている。そして、稔憲と蒼の魔改造により、二つの部屋はフロアに出ることなく行き来できる。

「持っていくのは私の部屋にしますか? 主様の部屋にしますか?」

「稔憲の部屋で。差し入れもあるから」

「かしこまりました」

 荷物の多さに、コンシェルジュにぎょっとされながらも、三人はエレベーターに向かった。

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