日常ミステリの新生面を開いた偉大なる名作

本作の舞台は現代の日本です。
日本で暮らす私にとって、本来は真新しくもなんともないはずのその世界。しかしなぜ、本作に広がる世界は新鮮な世界としてこの目に映り込んで来るのでしょうか?
どうやらそれには、”哲学”が関係しているようです。普段私の見ている景色と、本作の登場人物の(そして作者の)持つ”哲学”の目を通して見えてくる景色とでは、全くの別世界のように感じられるのです。
本作の主人公である理子は ”哲学”というフィルターを通して日常を見渡し、そこに潜む謎を発見します。そして”理性”という武器でそれらの謎と格闘する(あるいは戯れる)彼女の姿は、私にはとても眩しく、そしてとても幸せな光景に映りました。

知を楽しみ、理を敬うこと。
それは”ミステリ”の基本姿勢であるとともに、”哲学”の基本姿勢でもあるのだと本作から学ばさせていただきました。(もしかしたら哲学に限らず、すべての学問でも同じなのかもしれません)

本作は日常ミステリですが、上記の通りその日常は私の日常とは少し違っています。読者である私はその心地よい違いに微笑み、時に驚き、そしてただひたすらに尊敬するばかりです。

静謐な興奮を与えてくれる素晴らしい世界に私を連れていってくださったことを、心から感謝しています。

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