連載初期からずっと愛読している作品の1つです。
カフェでよく見かける今どきの大学院生っぽい女の子。でも、テーブルの上にカントやハイデガーの哲学書が置かれていたら、その子が気になりだしたりしませんか?
私が個人的に、この作品にずっと感じているのは、1つにはそういう魅力です。
とにかく主人公の東雲理子(しののめ・りこ)ちゃんが可愛い。
「作られた萌えキャラ」という可愛さではなく(それはそれで好きですが)、実際にいそうで、男からも女からも好かれるだろうな、というリアルな感じの可愛さです。
育ちが良さそうで、学識があり、少し天然。
その天然なところが、ストーリーに上手く活かされたりします。
たとえば、ドーナツショップで後輩の女の子とかわす、こんな会話。
「東雲さんは、ドーナツに穴があると思いますか?」
「……穴があるからドーナツなんじゃないのかな……もしドーナツに穴がなかったら……なんだろう、パン的な小麦粉のかたまり?」
この理子ちゃんの返しの秀逸さ。一見すると、天然同士の何気ない会話ですが、ここから「ドーナツのアンチノミー」という哲学的課題の分かりやすい解説になっていきます。
そんな感じで、カントを専門とする哲学科の女子大学院生・理子ちゃんの日常を描きつつ、さまざまな哲学的課題を少しずつ紹介していく、という趣旨の作品です。
哲学に興味がある人にはもちろん、ない人にもオススメです!
女子院生である東雲理子の専門は「哲学」である。
論文のテーマに悩んだり、一般的な院生と変わらない生活を送る理子の元にちょっとした謎が舞い込む。
哲学。と言われると難しい印象があります。
聞いたことはあるけれど、具体的にどういうものなのかは分からない。
私自身、哲学に詳しいわけではなく難し印象を覚えていましたが、この作品はそんな人にも丁寧に分かりやすく哲学の考え方を教えてくれます。
何より日常にありそうな、ちょっとした謎が魅力的です。
普段であれば見落としてしまいそうな、本当に些細なことも考えてみると確かに謎には違いありません。
その謎が解けたときに、ああ、なるほど!と爽快な気分にさせてくれます。
主人公の理子を含めて、各話に出てくる登場人物たちもそれぞれ魅力的です。
各エピソードの文章量はそれほど多くないのにも関わらず、的確に個性を表現しながら、一つのお話としてまとめあげています。
スマートニュース×カクヨム「連載小説コンテスト」優秀賞という話を聞き、興味を持って読みましたが納得の完成度です。
ぜひ、この機会に読んでみてはいかがでしょうか。
本作の舞台は現代の日本です。
日本で暮らす私にとって、本来は真新しくもなんともないはずのその世界。しかしなぜ、本作に広がる世界は新鮮な世界としてこの目に映り込んで来るのでしょうか?
どうやらそれには、”哲学”が関係しているようです。普段私の見ている景色と、本作の登場人物の(そして作者の)持つ”哲学”の目を通して見えてくる景色とでは、全くの別世界のように感じられるのです。
本作の主人公である理子は ”哲学”というフィルターを通して日常を見渡し、そこに潜む謎を発見します。そして”理性”という武器でそれらの謎と格闘する(あるいは戯れる)彼女の姿は、私にはとても眩しく、そしてとても幸せな光景に映りました。
知を楽しみ、理を敬うこと。
それは”ミステリ”の基本姿勢であるとともに、”哲学”の基本姿勢でもあるのだと本作から学ばさせていただきました。(もしかしたら哲学に限らず、すべての学問でも同じなのかもしれません)
本作は日常ミステリですが、上記の通りその日常は私の日常とは少し違っています。読者である私はその心地よい違いに微笑み、時に驚き、そしてただひたすらに尊敬するばかりです。
静謐な興奮を与えてくれる素晴らしい世界に私を連れていってくださったことを、心から感謝しています。
哲学という一見とっつきにくそうなテーマを扱っていますが、非常に上手く日常系ミステリに落とし込めていると思います。
あまり馴染みのない(これは私に教養がないだけかもしれませんが……)哲学用語が数多く登場しますが、作者様の文章力の高さも相まって違和感なく読み進めていくことができました。
専門的で雑学的にも感心できる哲学知識が広く出てくることもこの作品の大きな魅力ですが、キャラクター文芸としても優れていると感じます。
過剰に個性的な登場人物は出てきませんが、現実世界にいそうな、そして現実世界にもしいるのならば是非知人、友人になりたいと思わせるようなキャラクターを描くのがとても上手。
特に私は大道寺先生と友香ちゃんがお気に入りです。
哲学という一般的に馴染みのない学を持つ主人公が、日常に転がる小さな謎を解決していく……、まだ執筆中ですが概ねそのような内容でしょうか。
(この後、驚くほど劇的な展開に進む予定であればそれもそれで面白そうです)
「死人を冒頭に」がミステリーの常と言われますが、この作品はそういう意味で起伏のない作品だと感じました。それでも退屈せずに読めたのは、哲学を始めとする豊かな「知識」と「情報」が盛り込まれていたからだと思います。
初めはこの作品の雰囲気が気になって読み進めていましたが、雰囲気だけでは描けない筆者の見識の広さを感じ、レビューを書かせていただきました。
完結まで執筆頑張ってください!