第9話

 泣き続ける玲奈を見守っていると、ふと視線を感じた。

 周りにいる知らない人たちからの好奇の目が、俺たちに集まり始めている。

 花火大会の人混みの中にいることをすっかり忘れていた。


「とりあえず、静かなところに行こうか……」


 玲奈は頷いた。





 屋台の並ぶ広場へ向かう途中で通った堤防状の道まで戻り、河原かわらに下りる草の生えた坂の真ん中に、2人で腰を下ろした。

 玲奈もここまで歩いてきて、少しは落ち着いたようだ。

 少しずつだけれど、思っていることを口に出してくれた。


「私は人と話すことが苦手で、前の学校でもあまりうまくいっていなくて、孤立してた。陰でいろいろ言われてたことも知ってた。それで学校に行くのがつらかった。この学校は前に比べたらきつくないし、みんな優しいけど、それでも……」


 悲しみで彼女の表情が揺らぎ、一度はおさまったと思った涙がまた、大きな目に溜まっていく。


「また失敗するんじゃないかと思って、怖かった。私、人と関わるのが怖い……」


「……」


「転校したのは家の都合だけれど、新しい学校に行って環境が変わったら、もう少し頑張れるかもしれないって、期待してたの。でも、だめだった。だから……」


 彼女の声が震えた。



「……どこへ行ってもうまくいかないなら、もう死んでしまいたいと思った」





 玲奈は再び泣き出したけれど、話し続けた。


「青野くんはこんな私に話し掛けてくれて、仲良くしてくれて、それがとてもうれしかった。だけど、青野くんが私のことを本当はどう思っているのかって、余計な気をつかわせているんじゃないかって思ったら、やっぱり私なんかいない方が、って――」


「そんなことない!」


 思わず大きな声を出してしまった。

 玲奈が肩をびくっと震わせたのを見て、少し申し訳なくなった。

 俺ばかりが気持ちを先走らせていてもいけない……。


「……ごめん」


 玲奈は首を横に振った。


「……確かにお前は、周りの女子に比べても静かで、みんなと違うところもあるかもしれない。でも、みんなはちゃんとわかってくれてる。ちゃんとお前は愛されてる。いなくなった方がいい人なんていない。現に、俺は……」


 いつもなら、こんなことを言うのは恥ずかしいけれど。

 今日は自分の素直な気持ちを、まっすぐに届けたい。


「俺は、山崎と教室で話せて楽しかった。夏休みに入ってから全然会えなくて、寂しかった。また学校が始まったら会えることを楽しみにしてる。俺――」


 こうやって誰かと真正面から向き合うのは、きっと初めてだ。

 深く息を吸って、逃げ出しそうになる心を押さえつける。



「俺、山崎が……、玲奈のことが、好きだ」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る