第5話

 あの日の夢を見るようになって、5日目のことだろうか。俺はなんとなく違和感を感じ初めていた。

 目の前に広がるあの時の光景が、あまりにも鮮明すぎる気がする。

 しかも、今まで無音だったはずの夢の世界で、ぼんやりと音が聞こえているような。



 ――記憶は時間と共に薄れていくはずなのに――。





 そして、7日目の夜。

 いつものように玲奈が目の前にいる。

 ふと俺は気づいた。

 夢の中にしては不自然なくらい、自分がちゃんとここに立っている感覚がある。手に持っている財布の質感を、重さをちゃんと感じる。


「……たし、青野くんの――」

 玲奈の声が聞こえる……?


 ドンッ!


 その瞬間、1つ目の花火の音と共にたくさんの人の声が、いろいろな音が、どっと耳に流れ込んできた。


 あれ?

 何だこれ……。

 俺は夢を見ているはずなのに。

 まるでこれが現実みたいだ。


 まるで時間が巻き戻ったみたいだ――。


「……青野くん?」


 少しの間ぼうっとしていた俺は、玲奈に呼ばれて我に返った。


「ああ、ごめん。どうしたの?」


「えっ、何が?」


 ええ、何が? って……。


「お前、何か言いかけたよな?」


 俺に何か言いたいんだよな……?


「ううん、なんでもない」


 玲奈は困ったような笑顔でそう言った。


「ごめんね」


 そしてまた、俺に背を向けて走って行こうとする。

 あの日のように。


 ――このままじゃ、あの時と一緒だ――。


 そう思った俺は、走り出した。

 そしてすぐに追いついた俺は、咄嗟に彼女の腕を掴んだ。


「!?」


 玲奈はとてもびっくりした表情で振り返った。

 その顔を見て、俺もびっくりした。


 玲奈の大きな瞳が、涙でうるんでいる。


「何……?」


 そうだ。伝えなきゃ。今言わなきゃ――。


「俺に言いたいことがあるんだろ? 遠慮せずに言ってほしいんだ。それに、俺だってお前に伝えたいことが……」


 いざすぐ目の前の彼女に伝えようとすると、言葉が迷子になってしまう。

 俺が次の言葉を探し出そうとしていると。


「――やめて!」


 えっ……?


「私はあなたに何も言えない。言ったらいけない……」


 玲奈は今にも泣き出しそうなのをこらえているような顔をしている。


「どういうこと――」


「私はこれ以上、あなたと関わったらいけないの。あなたを悲しませてしまうだけだから……」


 俺がその言葉の意味を計りかねている間に、彼女は俺の手をそっと振りほどき、今度こそ走り去ってしまった。

 一瞬停止した思考回路をどうにか再び動かし、俺はやっと1つの結論に達した。

 まさか玲奈、どうしても死にたいのか?

 俺にはお前を止められないのか……?


 いや、絶対に止めたい。止めてみせる。


 俺はまた、走り出した。

 事件現場となるはずの、彼女のマンションを目指して――。

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