第4話

 夢の中で俺は、あの花火大会の人混みの中に立っていた。目の前に、浴衣を着た玲奈がいる。

 まるであの日のように。

 玲奈は俺に何か言おうとしているけれど、なぜかその声は聞こえず、やがて彼女はうつむいてしまう。

 そして再び顔を上げ、口を開いた瞬間、夜空に打ち上げられた花火が視界に入る。

 無意識のうちに空に向けていた視線を慌てて戻す。

 玲奈、何を言おうとしたんだ?

 しかし、玲奈は首を振り、走って行ってしまう。


 俺に背を向ける直前。


『ごめんね』


 口の動きだけだったけれど、確かにそう言っているような――。


 去っていく彼女を追いかけたいのに、足が動かない。声も出ない。


 待ってくれ、玲奈。

 俺に何て言おうとしてるの?

 それに、俺、まだお前に言いたいことが――。





 そこでいつも目が覚める。

 初めてこの夢を見た、玲奈のお葬式があった日の夜、俺は泣き疲れていつの間にか眠ってしまったらしい。

 彼女の死は、受け止めるにはあまりにも悲しく、残酷な真実だ。その彼女との最後の場面を夢で見てしまったことは、俺に多大なショックを与えた。

 夢の中で必死に彼女を追いかけようとし、現実に引き戻された俺は、もう彼女と会うことも話すこともできないことを改めて実感し、どうしようもなく胸が痛かった。

 そしてまた涙が溢れ、あんなに泣いたのにまた止まらなくなった。


「なんで、死んだんだよ……」


 その時、1つの可能性が頭に浮かんだ。


 玲奈が自殺したのは、俺のせい……?


 はっきりとした根拠はない。誰かがそう言ったわけでもない。

 むしろこんなことを言ったら、はなから否定されるかもしれない。

 でも、一旦そう思い始めたら、自分の中でその可能性を消すこともできず、止まらなくなった。


 俺があの時、玲奈の言いたいことをちゃんと聞いていたら……?

 俺があの時、花火じゃなくて、玲奈をちゃんと見ていたら……?

 その前に、普段からもっと話して、仲良くしておけば。ちゃんと悩みも聞いていたら。そんな仲になっていたら、彼女が思い詰めることもなかったかもしれない。


 いや、そもそも俺が、気づかないうちに彼女を傷つけていたのか……?


「クソっ……!」


 もし知っていれば、止めることができたかもしれないのに……。

 誰にもこの気持ちをぶつけることはできず、何もできなかった自分に苛立って壁を殴っては、また悲しみに胸を塞がれる日々を過ごすようになった。





 そしてその日から、あの夢を毎日見る。

 あの花火大会の日の、玲奈との最後の記憶。

 夢の中で繰り返されるその光景は、夢にしては不自然なほど、だんだん鮮明になっていく――。

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