第3話

 花火大会から一夜明けた14日の朝、クラスの連絡網で知らされた。(この時はただ彼女が亡くなったとだけ聞かされ、彼女の死が自殺だったということを、クラスの誰も知らなかった)


 信じられなかった。


 信じたくなかった。


 え、そんなわけない、山崎玲奈が死ぬなんて。昨日だって普通に話したんだぞ……?

 震える手でスマホの電話帳を開き、彼女の番号にかける。

 お願いだから、出てくれ……。

 しかし、コール音だけが部屋に虚しく鳴り響き、一向に彼女が出る気配はない。

 その無機質な音を100回通りほど聞いたかというところで、俺はやっと通話終了ボタンを押した。

 そんな、嘘だろ? 嘘に決まってるよな?

 山崎……山崎……


「玲奈――」


 彼女を下の名前で呼んだ。

 初めて、声に出して。

 その時になって、俺は気づいた。


 ――俺は、玲奈のことが、山崎玲奈のことが好きだった――。


「今更、遅すぎるだろ……」


 その瞬間、勝手に涙が溢れ、流れ出した。

 俺はしばらくの間茫然として立ったまま、流れ落ちる涙を拭うこともできず、やがて力が抜けてベッドの横に膝から崩れ落ちたあとは、枕に顔をうずめて嗚咽を押し殺しながら、ひたすら泣いた。

 こんなに泣いたことは、小さい頃にもなかったかもしれない。





 次の日にお葬式が行われた。

 赤く腫れて重くなったまぶたのせいで目があかないまま俺も出席した。

 クラスの女子の中には到着してからすぐに泣き始めたやつもいるし、いつも明るい男子たちもほとんど口を開かず、沈んだ表情で座っている。

 俺もここでは、みんなの前では泣かないようにしよう……。





 一通りのことが終わり、ほとんどの人が帰っていった頃、玲奈のお母さんかなと思っていた人が、担任の赤松先生と一緒に俺の所に来た。


「玲奈の母です。青野蒼太くん……?」


「はい、そうです」


 俺の予想は当たっていた。でも、どうしてわざわざ俺の所に……?


「昨日、玲奈の携帯に電話をくれたのは、あなたよね……? 着信音に気づいて画面を見たら、青野くんの名前があって。でも、私が出てもいいのかわからなかったの」


「すみません、うるさくしてしまって。俺、信じられなくて……」


「気にしないで。それで、青野くんに伝えたいことがあって、赤松先生にあなたのことを教えてもらって来ました」


 俺に、伝えたいこと……?


「まずは、玲奈と仲良くしてくれて本当にありがとう。あの子、学校のことはあまり喋らない子だったんだけど、1回だけあなたの話をしていたの。あまり感情を外に出さない方だけど、その時はすごくうれしそうに見えた」


 お母さんの目が潤んだ。俺も泣きそうになり、少し下を向いてこらえた。


「それと、もう一つ。驚かないで聞いてほしいのと、他の子には言わないでほしいんだけど……」


 ……何だろう?


 その意味深な口調に身構えていると。



「玲奈は、自殺したの。」



 言葉が出なかった。本当に頭が真っ白になった。


「13日の夜、花火が終わる時間から1時間たっても玲奈が帰って来なくて、心配し始めた頃に救急車の音が聞こえてきて。このマンションの前で止まるから出てみたら、あの子が……」


 葬儀の途中でも泣いていたお母さんが、また泣き始める。


「病院で、あの子の死亡が確認されて、そのあと家に帰ったら、あの子の部屋の机に……手紙が……」


 嗚咽混じりの声で、それでも玲奈のお母さんは全てを俺に伝えてくれた。

 つい先刻ここでは泣くまいと決めた俺も、もう限界だった。

 俺はまた声を抑えることもできず、お母さんと一緒に、涙が涸れるまで泣いた。

 先生がずっと、俺の肩を抱いてくれていた。





 玲奈のお葬式から帰ってきて、泣き疲れた俺は何もする気になれず、晩御飯も食べないままベッドに倒れ込んだ。





 その夜からだった。俺が毎日同じ夢を見るようになったのは――。

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