第11話

 ただし今回は、玲奈は高所から飛び降りたのでも他の方法で自殺したのでもなく――。


 交通事故だった。


 花火大会から1夜明けた14日の朝、図書館へ自転車で向かう途中、交差点に差しかかった彼女にトラックが直撃したそうだ。住宅街のブロック塀に囲まれた、見通しの悪い交差点だった。

 トラックの運転手がすぐに救急車を呼んだけれど、間に合わなかった。即死だったようだ。

 これは、玲奈が亡くなった次の日に執り行われたお葬式で聞いた話だ。



 14日の午後の段階では、玲奈が交通事故で亡くなったとだけ知らされた。

 クラスの緊急連絡網で伝えられたその情報を信じることができず、俺は担任の赤松先生に電話した。

 否定してほしかったけれど、動かしようのない事実だった。

 自殺ではない。でも――。


 なんで彼女が死ななければいけないんだ?

 せっかく自殺を止めたのに。

 もうあんなことはしない、って――。



 ――言ってたっけ?



 よく考えてみると――。


 俺が「死なないで」と言ったとき、彼女は「ごめん」と言った。

 俺が「ずっと一緒にいたい」って言ったとき、彼女は一緒にいようとは言わなかった。

 別れ際、俺は「またね」と言ったけれど、彼女はまた会おうとは言ってくれなかった。



 玲奈は生きることを、俺と一緒にいることを約束してくれなかった――。


「なんで……玲奈……」


 身体の力が抜けてその場にへたり込み、動けなくなった。

 もう立ち直れないと思っていたら、涙が出てきた。

 その日は何も食べる気になれず、俺は部屋で泣き、やがて涙も枯れ果て、いつの間にか眠っていた。





 次の日、俺は重い身体を引きずるように、玲奈のお葬式に参列した。

 現実を受け止めたくなくて、行きたくないとは思っていた。しかし、電話したときの俺の態度から何かを察してくれたのか、先生が、


『山崎に会えるのは、これが最後なんだぞ。お前が来なかったら、あいつも悲しむかもしれない』


 と言ってくれたので、俺は逃げないことに決めた。

 お経が読み上げられる間、同じ人のお葬式に2回も出るなんて、なんだかおかしいな、なんてぼんやり考えていた。

 2回目に玲奈が自殺したときは、彼女を助けるチャンスがあると思って、お葬式には出なかった。

 彼女が亡くなったことにしてほしくなかったから……。





 全てがとどこおりなく行われた後、玲奈のお母さんが手に青い封筒を持って、俺のところに来た。


「あなたが、青野くん……?」


「はい……」


「これ、玲奈の机の上に置いてあったの。たぶん昨日の朝、出かける前に置いて行ったのね……。よかったら、よんであげてください」


「……!」


 玲奈から、手紙……?


「あ、ありがとうございます……」


 お母さんから封筒を受け取ると、『青野蒼太くんへ』と書かれていた。

 俺に、いったい何を……?

 それに、このタイミングでって、まるで――。



 玲奈が、自分が昨日死ぬことを、予期していたみたいだ――。



 混乱する気持ちを抑えつつ玲奈のお母さんに一礼し、俺は会場から出た。

 その足で、あの夜玲奈と話をした。河川敷へ行き、あの夜と同じところに腰を下ろし。

 俺は震える手で封筒を開けた。

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