第1話

『悪い、急に親戚の家に行くことになって、こっちの花火大会には行けなくなった。本当にごめん!』


 8月13日、昼過ぎ。

 中学校からの親友である功輝こうきからのメールに、俺は思わずため息をついた。

 約束の当日だぞ、今日……。


「仕方ない。アイスバー一つで手を打ってやろう」


 わざと古風で偉そうな返事を送ってみる。

 夕方から始まる近所の花火大会のせいで、少し浮かれているのかもしれない。自分はそういうタイプではないと思っていたが。

 しかしこれでは一緒に花火大会に行く人がいない。

 毎年当然のごとく、功輝と待ち合わせて行っていたのだが、どうしたものか……。いや、今から連絡しても、グループに入れてくれるやつはいるはずだ(いると信じたい)。

 そんなことも考えていたが、なんとなく面倒に感じて、一人でいいや、という結論に落ち着いた。





 誰にもメールを送らないまま夕方になり、出店の開く時間になってから家を出た。

 川沿いの道を5分ほど歩くと、たくさんの人と出店で賑わう広場が見えてきた。

 夕飯代わりに焼きそばを買って食べていると、早速クラスの男子3人組に声をかけられた。


「あれ、蒼太そうたじゃん。もしかして一人? 功輝は?」


「急に親戚の所に行くようになったんだって。昼過ぎになっていきなりメールしてくるんだぜ。アイスおごれって言ってやった」


「まじかよ。お前も大変だなあ」


 宏樹ひろきが言い、俊平しゅんぺい悠也ゆうやが笑う。

 ちなみにあの後、功輝からは『安いやつな! 俺金ないから(笑)』という返信が来ている。


「それなら俺らと一緒に来る? さすがに一人じゃすることもないだろ」


 悠也が誘ってくれたので、ありがたくついて行くことにした。

 俺たちのクラスの男子はほとんど裏がなくて、みんな仲良くやっている。特にこの3人は明るくて、クラスの中心的存在だ。

 そんな3人とたこ焼きやかき氷を買い、例年通りに半分以上残っている宿題や進路のことを話し、バカみたいに騒いで、久しぶりに楽しい時間を過ごした。





 ふと気づくと空は完全に真っ暗で、それとは対照的に祭りは活気に溢れ、輝いていた。

 花火を見る場所をみんなで探していた時。

 一人で歩く紺色の浴衣姿の女の子に、ふと目が止まった。

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