第7話

 また助けられなかった――。


 受けたショックが大きすぎて力が抜け、俺はその場に膝をついた。

 しばらくの間、そのまま動けずにいて、それからはっと気づいた。


「救急車……」


 震える手でスマホを取り出し、掠れた声でつかえながら、なんとかこの状況を伝えた。

 電話を切った後にやっと立ち上がり、のろのろと階段を下りると、ちょうど1階に辿たどり着いた時に救急車が到着した。

 担架に乗せられて運ばれる玲奈の姿は、人だかりに遮られて見えなかった。





 玲奈は病院に搬送されたが、その時点で既に亡くなっていた。

 俺は、現場にいたということで警察の事情聴取を受けたが、彼女の部屋から直筆の遺書が見つかったことで、彼女の死は自殺と断定され、すぐに家に帰された。


 彼女の搬送先の病院に、俺は行くことができなかった。

 亡くなった玲奈を見れば、自分がどうにかなってしまうのではないかと思い、怖かった。

 悲しかった。どうしようもなく。

 悲しすぎて涙が出なかった。

 ただ頭が回らないまま、呆然としていた。





 家に帰ってベットに倒れ込んだとき、多少気が緩んで、やっと涙が溢れてきた。

 俺はそのままずっと泣いた。


 また助けられなかった。

 結局俺は、玲奈を助けるどころか、追い詰めてしまったんじゃないのか?

 ああ、俺のせいで、玲奈は――。



 やり直したい、全部――。



 子どものように泣きじゃくって、ようやく落ち着いてきた俺は、ここ数日の出来事について考えてみた。


 俺は眠っていたはずなのに……?


 スマホを見てみると、日付が変わったころで、8月14日という表示になっている。


 あれ? これって21日の夜の夢じゃ……?


 気になって調べてみると、『タイムリープする方法』というサイトがあったので、開いてみた。


 同じ夢を続けて何回も見ていると、その夢はだんだん鮮明に、より現実に近くなる。そしてある時、夢と現実が入れ替わる――。


「これだ……!」


 1人で小さく叫んだ。

 俺はあの日の夢を何回も見ていたから、昨日夢と現実が入れ替わったんだ。


 俺は知らないうちに、タイムリープしていたんだ。


 俺の中に1つの考えが浮かんだ。


 同じ方法を使えば、またあの日に戻れるんじゃないか?

 今度こそ、玲奈を救えるんじゃ……?





 そしてこの日から、俺はまた、同じ夢を毎日見始める。

 あの花火大会の日。

 今度は、俺は玲奈の手首を掴んでいる。

 玲奈はびっくりした表情で振り返る。

 彼女が何を話しているのかはわからない。自分の声も聞こえてこない。



 それでもわかる。

 これはあの日の、あの時の夢だ。

 目の前の光景に集中する。

 覚めないように。あの日に、玲奈に近づけるように。



 夢はまた日を追うごとに、少しずつ鮮明になっていく――。

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