バトルヒロインに打ちのめされるのはアナタ

ぶってよし、撃ってよし、食ってよしのヒロイン・キッカのアクションを楽しむもよし。彼女を取り巻く個性豊かな大人の男たちを、乙女ゲーのように攻略対象として妄想して楽しんでもよし。そんな大人たちを傍から見るJKユナのウブさを楽しんでもよし。楽しむ要素満載の近未来SFアクションで、とても贅沢な一品だと言えるでしょう。

しかし、本作を単純な娯楽作品にとどまらないものにしているのは、キャラクターが各々を見る眼差しの機微にあります。
頼れる上司を見る眼差し、気に入らない同僚を見る眼差し、父親の影を求める科学者への眼差し、特に主人公キッカがひとりひとりの男性を見る眼差しと揺れ動く心情は、彼女を間違いなく生きた存在として読者の中に浮き上がらせます。

道具の使い方もまた巧みです。例えば第十一話のキッカが化粧を施すシーン、『パールの入ったグレーのアイシャドウを瞼に乗せ、目尻を軽く跳ね上げたアイラインを描く。長い睫毛をマスカラでコーティングすると、クールで硬質な目許ができ上がった。両頬にはローズ系のチークをすっと鋭角に入れ、指でぼかして馴染ませる。仕上げに、鮮やかな色の口紅で形の良い唇を彩った』、普通ならばこのシーンは無駄な文章にも見られかねませんが、これによってキッカがメイクアップをしながら自分の心の内に化粧を施すように、メイクアップマインドしていることが前後の関係から明らかであり、退屈な単語の羅列と捉える読者はまずいないでしょう。女性ならではの描写だといえるのかもしれません。
そしてこういった各種ツールを使った心理描写がしっかりしてるが故に、物語が進んでいく中、ひとりの女性が戸惑い傷つきながら戦う様には真に迫るものがあります。読めば読むほど、読者は主人公に肩入れせずにいられなくなるでしょう。

時に繊細な涙を流すウブな少女になり、時に男を手玉に取る魔性の女になる。そんな肉食系ヒロインを攻略するではなく、攻略される対象のような気分になりながら楽しめる作品です。

その他のおすすめレビュー

鳥海勇嗣さんの他のおすすめレビュー41