残酷な世界で彼等は戦う、愛を唄う為に

王道のSFを地盤にしたうえでそこに展開されるストーリーやアクション、サスペンス、それらが非常に洗練された作品です。
序章から本編終盤までの構成、伏線の張り方とその回収が見事で、アッと驚かされる展開の連続で最後まで余すことなく楽しむ事が出来ました。

登場人物の心情も深く描かれている為に感情移入しやすく、話にのめり込みやすい作りとなっています。
この作品の真のテーマは「愛情」。親子や姉妹、夫婦や恋人など、深い愛情と残酷な現実に揺れ動くキャラクター達の心情が鮮明に描かれており、その描写には息を飲んでしまいます。
主人公のキッカやクオンだけでなく様々なキャラクター達にも自然と愛着が湧くでしょう。
筆者の深いキャラ愛がうかがえるようです。

アクションシーンとそれ以外の緩急の調整も素晴らしく、とにかくテンポが良いので読み進める手が止まりませんでした。
心理描写や情景描写も非常に上手いのですが、専門知識が必要とされる場面が多いSFジャンルで各所において全く違和感なく読めてしまうというのはかなり技術が必要で、それらは筆者の豊富な知識量が為せているのだと思います。

加えてこの作品の良いところは、番外編として各キャラクターに着目したストーリーが展開されている点です。
本編では語られなかった話、キャラクターを好きになった読者に向けたサービスという点でも、抜かりがありません。
エンタメとしても素晴らしい作品です。

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