祖父が愛したもの、作ったもの、遺したもの。彼の背中を押してくれるもの。

エルカという木がある。
のびやかに、自由に育つ木だ。
木彫り職人だった祖父が愛した木だった。
祖父はエルカの棺の中で眠り、土に還っていった。

祖父の死をきっかけに、青年は久方ぶりに町へ出て人と話す。
仕事仲間に苦しめられた2年と、祖父に守られた2年が過ぎた。
引きこもってきた彼の心は、開き方を思い出せるだろうか。
尻込みしそうな彼の前に、天真爛漫で元気な少女が現れる。

青年の繊細な心の動きが、静かな筆致で描き出されていく。
彼の苦しさが浮き彫りになるが、少女のしなやかさに触れ、
彼の目に映るものが次第に変わっていく様子が鮮やかだ。
力強さを感じさせるラストが印象的だった。

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