「木彫りの彫刻とは、木から作るのではなく掘り出しているのだ」

 この物語は主人公の衝撃的な体験から始まる。大好きだった木彫り職人の祖父の死である。題名にある「エルカ」は主人公の名前でもヒロインの名前でもなく、祖父が愛した植物だ。
 主人公は祖父が残した多くの木彫りの作品を、誰かに大切にしてもらうために譲り渡すことにするのだが、その過程で少女と出会う。
 主人公の過去に端を発する友情。そのために内向的で頑なになっていた主人公の心を救ったのは、やはり木彫りという職業だった。少女は主人公を修行に送り出す。
 よく「木彫り」に関する本を読んでいると「木彫りの彫刻とは、木から何かを作り出しているわけではなく、木の中に埋まっている物を取り出す作業である」という文章を目にする。主人公の祖父の作業はまさしくこれだったのではないかと思われる。
 「さようなら、また会う日まで」というセリフ縛りがある作品だが、その縛りをよく生かしている作品だった思う。
 是非、ご一読ください。

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