概要
Rapid-Fire短編競作大会出品作。上記の課題文を使用。
高原の小さな町の郊外に住む引きこもり青年の、出会いと再生の物語。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!美しく静かな中に際立つ、繊細で鋭い心理描写に魅せられます
物語は、美しくとても静かに流れていきます。空気や風を感じるような、ものの色や形が見えるような、実に丁寧な描写とともに。
その隅々まで配慮が行き届いた筆致も見事だと感じましたが、特筆すべきは、繊細で鋭く、的確な心理描写です。表現力が高く、こまやかな仕草などがそれをより印象付けています。
亡くなった祖父への愛情、気にかけてくれる少女への感謝の念、木が好きだという想い、それに、自身を卑下する気持ち。本心とは裏腹な言動をしてしまい、後悔する。そんな素直になれない人の苦悩は、ぐっと惹きつけられるセリフとなって、読み手の心に突き刺さってきます。そして迎える感動のラスト。胸が熱くなりました。 - ★★★ Excellent!!!逝った祖父が遺してくれたものは、人を愛する勇気
木が好きで、大工として就職していたデリクは、職場で苛めに遭い、退職するはめに。幼友達に裏切られ傷心のデリクは、木彫り細工職人の祖父の許で暮らし始める。街を離れ、祖父と共に好きな木に囲まれた暮らしは、彼を少しずつ癒していった。
その祖父が、逝ってしまった。
やがてデリクは、祖父が遺した大量の細工物を、彼の作品を好んでくれた街の人々に配る作業を始めた。その過程で、デリクは一人の少女に出会う。彼女の待つ街へ通ううちに、デリクの気持ちは少しずつ変化していく。
短い物語ですが、木を愛する職人の心、傷ついた青年の成長と友情の再生が、丁寧に描かれています。ひとつとして同じ物のない木の細工に、職人の手…続きを読む - ★★★ Excellent!!!祖父が愛したもの、作ったもの、遺したもの。彼の背中を押してくれるもの。
エルカという木がある。
のびやかに、自由に育つ木だ。
木彫り職人だった祖父が愛した木だった。
祖父はエルカの棺の中で眠り、土に還っていった。
祖父の死をきっかけに、青年は久方ぶりに町へ出て人と話す。
仕事仲間に苦しめられた2年と、祖父に守られた2年が過ぎた。
引きこもってきた彼の心は、開き方を思い出せるだろうか。
尻込みしそうな彼の前に、天真爛漫で元気な少女が現れる。
青年の繊細な心の動きが、静かな筆致で描き出されていく。
彼の苦しさが浮き彫りになるが、少女のしなやかさに触れ、
彼の目に映るものが次第に変わっていく様子が鮮やかだ。
力強さを感じさせるラストが印象的だった。 - ★★★ Excellent!!!「木彫りの彫刻とは、木から作るのではなく掘り出しているのだ」
この物語は主人公の衝撃的な体験から始まる。大好きだった木彫り職人の祖父の死である。題名にある「エルカ」は主人公の名前でもヒロインの名前でもなく、祖父が愛した植物だ。
主人公は祖父が残した多くの木彫りの作品を、誰かに大切にしてもらうために譲り渡すことにするのだが、その過程で少女と出会う。
主人公の過去に端を発する友情。そのために内向的で頑なになっていた主人公の心を救ったのは、やはり木彫りという職業だった。少女は主人公を修行に送り出す。
よく「木彫り」に関する本を読んでいると「木彫りの彫刻とは、木から何かを作り出しているわけではなく、木の中に埋まっている物を取り出す作業である」という文章…続きを読む - ★★ Very Good!!ここに少年は始まりを刻む
そんな言葉が最後にふと思い浮かんだ作品でした。
それほど長くない物語ですが、多民族が共存する西洋的ファンタジー世界の片隅の空気だけでなく、少年少女たちの怒りや悔しさ、無気力、ほのかな思慕といった素直な感情が伝わってきました。物語の展開も過不足がなく、自然で。なんとなく、パステルカラーとか丸みのあるイラストとか、そういう優しいものが似合いそうと勝手ながら思いました。
一人では立ち止まってしまう悩みでも、誰かと一緒なら歩いていけるんですよね。読んだ後には、暖かく柔らかな風が吹き抜けていくような気持ちになりました。
個人的には、デリクとクロのやりとり、とりわけクロがデリクを励ますシーンが…続きを読む