美しく静かな中に際立つ、繊細で鋭い心理描写に魅せられます

 物語は、美しくとても静かに流れていきます。空気や風を感じるような、ものの色や形が見えるような、実に丁寧な描写とともに。

 その隅々まで配慮が行き届いた筆致も見事だと感じましたが、特筆すべきは、繊細で鋭く、的確な心理描写です。表現力が高く、こまやかな仕草などがそれをより印象付けています。

 亡くなった祖父への愛情、気にかけてくれる少女への感謝の念、木が好きだという想い、それに、自身を卑下する気持ち。本心とは裏腹な言動をしてしまい、後悔する。そんな素直になれない人の苦悩は、ぐっと惹きつけられるセリフとなって、読み手の心に突き刺さってきます。そして迎える感動のラスト。胸が熱くなりました。

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