役小角(えんのおずぬ)。渋い選択である。大化の改新前に生まれた呪術師で、作者の作品とは矛盾しない。歴史には「何故だろう?」と思わせる場面が多々あり、それを全て役小角の遺物の仕業とすれば、何となくストンと収まる算段。ある意味、作者の作戦勝ちである。とは言うものの、それを短編連作集にまて昇華させうるか否かは須く作者の力量に拠る。平たく言えば、ストーリーテラーとしての資質は十分だと思う。ありきたりの展開と後ろ指を指す読者もいようが、私は「楽しめるから良いんじゃないの?」と思った。
この日本において何度となくあった、国の興亡、歴史の分岐点。もしその影に、人ならざる力が働いていたとしたらどうだろうか。役小角が残したとされる一本の小柄。それが輝きを放つとき、英雄たちは決断を迫られる。そこに天意を見出した者の運命、使わなかった者の矜持。我々の知り得なかったドラマに、心が躍らされます。偉人から偉人へと受け継がれて、その変遷から紐解くオムニバス形式で、世界観の広がりとは逆に、手軽に読める怪作短編集です。
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